先日、晴れて成人を迎えた私であるが今一つその実感が湧かない。それはきっとそれまでと生活が一変していないからだろう。
成人後初めて飲むビールはどこかアルコールの味がした。

えんどう豆を一つ二つと口に放り込んだ私は小型テレビをつける。そしてチャンネルをニュースから変更して、スポーツ。
それは勿論サッカーだ。

ぼんやりとテレビの画面を眺めていると、動く動く彼ら。それからこれが黒田さん、杉江さんの受け持っているポジションか、とゴール前の二人を見る。
彼にサッカーについてを教えていただいた私は、以前までのただ動いてる彼らを眺めているだけではなくなっていた。
テレビ相手に熱狂している自分がいて、何だかいつもの私らしくない。思っていても、やっぱりイングランドは盛り上がってるなあ、と独り言を呟かずにはいられない。
私は横目でテレビ画面を凝視しながら、飲みかけのビール缶に手を伸ばした。



「ああ、考えてなかった」

私立のそれなりに名の知れた大学に進学した私は、常のように大学へ授業を受け終わり、今日はもうこれで帰ろうかな、と考えていたころだ。そこへやって来た、成人式での友人がひょっこりと現れ、進路についてどうするのか、と尋ねてきた。

「え、それやばくない?」

「まあ、そうだなあ。」

ガシガシと頭を掻きながら私は言葉を濁す。特に目指すものも無く、なりたいものも無い私は目を泳がせていると、友人は事前からそれを予期してたのか、目を輝かせながら私の手を握り締めた。嫌な予感に脳が警報を鳴らすが如く頭痛を引き起こさせている。


「せっかくだし、サッカー見に行こうよ」

「・・・は?」


ぱちくりと瞬きをした私など気にもしないで、彼女は私の手首を掴むと引きずるように足を進めた。仕方ない、と溜息をついた私だけれど、結構乗り気な自分がいると気が付いたのは彼らの練習を見ている時であった。

「頑張れー!」

友人は嬉しそうに声を上げて、フェンスに張り付いている。私はそんな彼女を後目に選手たちを眺めていた。
春になってますます温さの増す中、彼らは大量の汗を太陽にきらきら輝かせながら走り回っている。その必死な姿にもう開幕しているのであるし、一度ぐらいスタンドに見に行ってもいいかなという気持ちになった。
ちらりと隣りの彼女を見遣れば、じっと一点を見つけている。それを辿れば杉江さんと黒田さんに行き着いて、ついて笑みを溢してしまった。

「何かあった?」

「やっぱり面白いや」


手の甲を口に当てて笑う。彼女は嬉しそうにサッカーは面白いんだって、と言うとまた視線は彼らへと向かった。あんたのこと言ってんだけどね、と心の中で呟くと私も一緒になって彼らへと視線を送った。


「あれ、来てたんだ」

練習が終わるまでずっと見ていた私たちは見事に杉江さんに気付かれた。その後ろからは黒田さんもやって来ていて、私は二人に会釈を浮かべた。

「私が就職先を決めてないって言ったら、何故だか、ここに連れて来られたんです。」

苦笑いしながら友人を見遣れば、ごめんと一言謝ったのでそれ以上は言わなかった。だけど、どうしてか二人は頭を捻っているような顔をしている。二人が何をしているのか分からなくてじっとその様子を眺めていると杉江さんは取りあえず着替えて来る、と中に入ってしまった。黒田さんもそれに続くように姿を消す。
私たちは見えなくなった背中に気を遣わなくてもいいのに、と二人苦笑し合った。


(おい、あの綺麗な女の子たち二人のこれか?)
(すんません、その言い方おっさんっすよ)(んだとー!)
(クロ、行くぞ。先輩も先失礼します)

20110113// 夜を突き抜ける
加筆修正 20120805