勇作さん勇作さん
ゆさゆさと珍しく芝生の上に寝転がっている彼に気が付いた私は、一瞬だけ寝かせてあげた方が良いのだろうか、と考えるもどうせ後半刻もすればチームメイトがやってくる。なら、さっさと起こそうと思案した私は勇作さんの隣りに腰を落として声をかけたのだ。

ん、と漏れる声に私は身体を揺らす手を止めた。そしてその数秒後彼はゆっくりと瞼を開ける。

「名前・・・?」

「ごめんね、起こして」

焦点の定まった頃、勇作さんは寝ていた身体を起こして私を見た。それからいや、別に。と少しだけ微笑んでは私の頭を撫でてくれる。その気持ち良さに犬猫の如く目を閉じた。

「どうしてこんなところで?」

三月だと言えども、油断していれば確実に風邪を引いてしまうような曖昧な季節なのに。そうぽつりと浮き上がる感情に私は口を尖らせていた。そんな私に気が付いた勇作さんは困ったように笑いながら頭を掻いている。
その行動にもっと分からなくなった私は、ぽかんとした様子になって背の高い彼を見上げた。

「いや、特に訳なんて無かったんだ。」

だからそんなに拗ねるなよ。
ぽんぽんと頭を撫でられた私は、また笑顔に戻ってしまう。自分でも思う程、私は単純な奴だ。勇作さんの言葉一つに私の感情も表情も全て左右されてしまうぐらい、私は彼が好きだ。
ふつふつと溢れて零れるような愛情に私は小っ恥ずかしくなってすりすりと勇作さんの肩に自分の頬を摺り寄せる。まだ、選手は来ていないらしく彼らの声は聞こえない。まるで私たち以外に人はいないような感覚に陥った。

太陽の光が芝生を半分ぐらいまで届いており、綺麗だ。


「私、拗ねてないよ。」

「そうなのか?」

「うん」


彼の横顔を眺めながらこくりと頷いてみせると、また頭を肩を寄せる。尖った耳がなんだか、魔法でも使えそうな人だ、とメルヘンなことを考えると私はとても自分が可笑しくなった。二十歳も過ぎたいい大人が、魔法だなんて、ね。

でも、勇作さんを愛おしく思うこの心持はきっと、彼の魔法のせいなんだ。じゃなかったら、こんなに幸せに思う訳がない。絶対そうだ。

「勇作さん」

「ん?」


「愛してます、誰よりも」

こちらを向いていた勇作さんの鼻先にキスを落として、ふふふと口元を緩めた。



「あー! スギ羨ましいー!」
「か、監督!?」

「名前、落ち着け。監督もこそこそするの止めて下さい」

背後でニヒーと意地悪い笑みを浮かべている監督に私は、怒りや恥ずかしさで顔を赤く染めて飛び退く。けれどそんな私の手を握ってくれた勇作さんはきっと私の王子なんだ。

20110115//愛なんて簡単に口にするもんじゃない