風魔小太郎、やはり頭領の名を貰ったのはあいつか。

ぱちりと目を開け、目だけを動かし辺りを見る。夜目の利くように幼い頃から訓練を受けていた忍びはすぐにここがいつもの屋根裏だと確信を得た。

(また夢、か)

最近夢をよく見ると心の内で嘆く。
ぐぐっと身体を伸ばし、反動をつけて起き上がる。赤い髪に頬の赤い顔料。あれは間違い無く風魔小太郎だと思った。

「外聞よ」

とん、と音を立て元就様の背後に跪く。丁度日輪を拝むために外に出ていた主はちらりと姿を確認する程度に忍びを映した。

「そなたには今回、別に任務を言い渡す」

雑兵の報告によれば、ザビー教の者が近くにやってきており、本日には安芸へ上陸する。高々神に縋り付くことばかりの能無し共よ。信教など我の敵にもならんわ。


・・・


我一人で事足りる。
そう申された元就様に僅かに寂しさとも取れる何かを感じながらも忍びは頷いた直後に消えていった。しかしその忍びが帰って来ると安芸に変な頭の者達が暴れている。
忍びはぽかんと数秒立ち止まってしまったが、すぐさま走り出した。安芸は忍びが出て行った夕方から大雨となり波が荒れていた。よってその数日経った今攻め入られていたのだ。

(ゆ、揺れている?)

周りの倒れている兵士達を避けて走って行けば振動が伝わってきて、走る速さを緩めた。その瞬間、角から大きな変な男が走ってくる。

「ナマイキデース!憎タラシイネ」

忍びは思わず一瞬立ち尽くしてしまうが、すぐに忍刀を抜き切りつける。しかし大きすぎるその男は進みを止めることは無くずんずん乗り込んでくる。

(くそ!何だこいつ!)

押しかえされ、一向に進みが衰えない信者を忍びは先端に麻酔を付けた苦無を投げる。そして、その信者の向かう先を逆算し元就の場所へとすぐさま向かった。

もうすぐそこまで迫っていたこともあり、すぐに城主の元へと辿り着いた。いつものように元就様は冷静な表情で戦略を考えておられる様子であった。

「帰ったか忍び、報告は後にせよ」

膝をつき忍び自身の足元を眺め、こくりと頷く。地響きのような音が一層近づいたため無礼を承知で庇うように少し盾になる。
元就様は深く眉間に皺を寄せていて、悔しそうに歯を食いしばっているように見えた。矢張りこの方も人なのだなと妙に納得してしまう。

「貴方ニ教エテアゲマス!必殺愛ノ方程式!」

段差のせいで変な頭がちらちらと見え隠れし、兵達が倒れていくのが目に見えて分かるようだった。忍びは目にも止まらぬ速さでその中へ駆け込み戦闘へと加わって行く。

「ほう、それは我の知らぬ計算式だ」

「!?」

元就様の言葉に思わず目を見開き、忍びは言うなれば今にも城主の名を叫びそうな勢いだった。そしてその一瞬の隙を突かれ大きなその鉄の塊で思い切り右肩を打ちつけられる。忍びは苦渋を噛みしめながらそのまま段差を転がり落ちていく。

「愛ハ計算外!貴方ノ智略モ  」
「愛とは何であろうな」


20101114