忍びはまず越後の上杉へと向かい、奥州の伊達へと向かった後甲斐の武田へと足を進めた。安芸では梅雨でじめりとした風が吹き付けていたものの、越後や奥州、甲斐は肌寒くなるような風が流れている。
二国からの情報では武将同士が連合軍を作るようにかぶき者が説得し歩き回っていると言う。
忍びは無意識に近い感覚で高い木にとまると、冷えた爪先を片手で包み込んだ。色々な地へ飛ぶ忍びであるが毎度、こうも地の気候は違うのかと日ノ本の広さに感心してしまう。
小さく見える城を眺め、息を吐く。
長曾我部軍でのこともあり、忍びは町人に紛れ込むのを心底嫌だと思ったが、城に忍びこむのは馬鹿な行為だと考えると、仕方なく娘の格好をすることにしていた。
甲斐の城下町も安芸の国とそう変わらぬ賑わいがあり、忍びは表情を緩めて歩いていた。甲斐も越後も奥州もどこも民は飢えておらず、城主は皆素晴らしい方なのだろうとらしくないことを考えは、己の主を思い出す。
兵を捨て駒扱いすると皆々は批判し、兵たちであれ主を見ると恐怖を目に浮かべる。しかし彼らは一つも分かってはいない。主は安芸の国を守るためにやっているのだ。ことに無駄死にをした兵などなく、如何に手際よく敵を落とし、死者を減らせるかと毎夜毎夜策を練っておられる。
故に忍びは皆の主を恐れる目が姿が嫌いであった。
何故分からぬと悔しく怒りに震えたことなど数えきれない。
ここまで思想を巡らしたことろで、騒がしい声に忍びは顔を上げた。目の前には甘味屋と書かれた暖簾があり、中からは声が漏れてくる。
しかしそのようなこと自分には関係の無いことだと、状況理解をすると違う方向へ視線が向かう。そうして二三歩踏み出したが甘味屋なら情報が漏らされていても可笑しくないと考えた彼女は踵を返すと迷いなく暖簾を潜った。
団子を一串頼んでぼんやりと座って待つ。矢張り中は騒がしかった。
「旦那、それぐらいにしておきなよ」
「佐助!この程度、某には腹の足しにもならん!」
(・・佐助・・・?)
肥前での城で会った忍びか、と気付かれぬように横目で見ていると団子が運ばれてきたため、頭を浅く上下させた。
「あら、お武家様は今日もいらしているのねえ」
あれほど騒がしかったと言うのに今更気が付いたのかとばかりに、笑う目の前の人に忍びは笑って会釈した。
「あの方、先日は越後の上杉謙信公の元に向かったんですって。凄い方よね」
もしや連合軍の件か。
ふむ、と考える素振りをしていた忍びであったが、すぐに笑顔を張り付けもう一度軽く礼をした。
上杉と武田が承諾したと言うことは、伊達も・・。いや、あの独眼竜のことだ。そう簡単に徒党を組むはずがない。となればこの両国が伊達の後ろから続く、か?
それではかぶき者は次はどこへ向かう。東を一回りしたとなると、次は西と考えるのが妥当か。おおよそ西と東で挟み撃ちにする気だろう。北条へは向かうべきであろうか。
悶々と考え込んでいると目の前に佐助と言う忍びがおり、じっと偵察するように忍びを見ていた。忍びはいつもの通り会釈し、団子へ漸く手をつける。
(もう少し詳しく事を聞くとしよう)
さっさと団子を口に含み急ぐように茶で流し込むと甘味屋を出て行った。
20101227