ある男のケース


島々を巡り、ついに入手したエッグは5つになった。
俺は、レミがテーブルに並べたエッグを、感慨深い気持ちで眺める。

最初に行った密林では彼の意外なところが見れたな、であるとか。
南国の楽園での水槽は見事だったし酒も美味かったな、であるとか。
狼の腹痛まで治せる奴に出来ないことは無いのではないか、であるとか。
神風の谷での彼女の憤慨が実に恐ろしかったなあ、であるとか。
遺跡の土地では予想通りさっぱり付いて行けなかった、であるとか。

初めのうちこそ、どのくらいの期間になるものか心配も感じていたのだが。
こうして終わってみれば、非常に短いものだったとも思える。


エッグが、淡く光り始めた。


エッグが戻るたび、アーリアは不安を消していった。
ルークに言わせれば、それは楽しいからだろうとのことだった。
彼女が使命を忘れて旅を楽しんでいたのなら、それは喜ばしいことである。
しかし同時に、彼女が古代の人間に戻った時にどうなるのか、という気持ちもあった。
羽衣を纏った竹の姫のように、築き上げてきたなにもかもが変わってしまったら?


発色は青白かった。


今まではエッグを集めることを目的としていた。次は、いよいよアスラント文明だ。
奴は遺跡に固執していたから、なにかしらの理由があるのだろう。
追及する気はない。
だが、もしかしたら。俺は奴を信じきれていないのかもしれない。
彼らの信念が対峙した時、俺は何を選ぶのか。いまだ決めかねているのかもしれない。


「これは…聖閃石ではありません」
「…――なんだって?」

思考の海から浮上して、俺はアーリアとエッグを見た。
ひとつだけ発光していないエッグだった。光り続けるほかのエッグとは違い、それは無反応だ。

「きっとタージェントのしわざですよ!」

ルークが言った。
エッグをすり替え、本物を持ち去ったのではないかという推理だった。


俺は検討を始める。
思考を隅に追いやって。そして事実だけを見た。

ここに本物はない。もうすこしだけ旅は続く。
しかし、楽しい旅は終わりを告げ、全てが変わる瞬間が来る。進むときが来る。


夢の終わりは、すぐそこに迫っている。


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