10 グレイアンサー


村長の家の前まで戻ってくると、まだエノキが遊んでいた。

「おじちゃんたちお帰りなの。じいちゃんのかたち、見た?」
「君のおかげで調査も進んでいるよ。協力してくれてありがとう」
「あ、あのね、ばあちゃんの話も聞く?」
「おばあさんさえよかったら、ぜひ話をうかがいたいね。今はどこにいるんだい?」
「あのね、ばあちゃん、さっきからおうちにいたの。おあがりくださいなの」

言うエノキに案内され、レイトンたちは村長の家に入った。
家には巣箱がたくさん設置されており、鳥が自由に出入りしていた。鳥も家族の一員のようだ。
日が遮られるだけで、こころもち涼しいような気がした。高く作られた屋根からは、果物や木の実が下がっている。
自動で目玉焼きが作れる装置もあり、すべてが自然物でできていた。

「来たかい。旅の人」

奥で、座っていた老婦人が立ち上がった。彼女がエノキの祖母のようだ。
席を勧められ、レイトンたちは柱を囲んで座った。椅子は、木を組んで作られている。柱にはキノコの菌が植えられており、小さなキノコが生えていた。興味深い文化だ。生活の知恵なのかもしれない。

「村の連中は意地の悪いことを言わなかったかい?」
「いえ、とんでもない。いろいろとお世話になっています」
「外の人なんてのは、あたしも小娘の時に見たきりだけどね」

婦人はアミガサと名乗った。

「ジイさんの心配をしてくれてんのだろ。お世話さんなこって」

アミガサは、警戒して在宅を隠していた割には、非常に友好的だった。敵でないと理解してもらえて、ひとまず安心だ。
ライアーたちも自己紹介をして、場の全員が握手を交わした。

「ここ最近、村長さんの身に何か、変わったことはありましたか?」

レイトンが話を切り出す。

「そうさねえ…。なんだか狩りの腕がさっぱり落ちたらしくてねえ」
「狩りの腕ですか」
「矢が当たらないどころか、弓までなくしてくる始末なのさ」

アミガサは、ため息をつきながらお茶を飲んだ。中身を問うてみると、聞きなれない植物のお茶だった。
匂いは美味しそうなのだが、前述の例もある。飲むべきか、飲まざるべきか。
ライアーは正面のカップを見る。

「休憩してた時に忘れちゃったのかなあ」

ルークが言った。

「いんやー、あれでも村じゃ、名うての狩人って呼ばれてたから。道具を粗末にするとは思えんねえ」

近頃では、村長は腹から笑うこともなくなり、外出すれば食事の時間まで帰って来ないのだという。

「ふむ…。よほどショックだったのでしょうね」

ライアーは心の底から同情した。
狩りで使う際の弓となれば、それこそ、自分の命を支えてくれる大切な道具だ。道具は、自分にあったものでないと実力が発揮しにくいし、癖の分かるものでないと、いざという時に困る。
それを適当に扱って無くしたとなれば、ベテランの狩人のミスとしては、けちなものの部類に入るだろう。弓の名手の誇りが傷ついたのかもしれない。

「夜になってもプーラプラ。何してるんだろうねえ、あの人は……」

アミガサは、悲しそうに肩を落とした。

「……なるほど」

急に、静かな声でレイトンが漏らした。

「奥さん、村長さんが笑わない理由がわかったかもしれません」
「ホントかね?」
「先生、もう分かったんですか?」
「私の考えが正しければね」

レイトンは帽子のつばを上げ、アミガサにむかって、奥さん、と呼びかけた。

「村長さんの事は私たちにお任せください。きっと 笑顔を取り戻してくれるはずです」

にっこりと、安心させるように笑う。

「まあ…そうかい…。それじゃあ頼むとするかね」

アミガサは、ほのかに表情を明るくさせた。何度も「ありがたいことだねえ」と呟く。

「そうと決まれば、さっそく、村長さんに笑ってもらうための道具作りをするよ」
「先生、また変なお面の準備ですか?」
「それは出来てからのお楽しみさ」

レイトンは、ナゾ解明の期待に満ちたルークの顔を見てウインクをした。レミも、ルークと同じ表情だった。
アーリアは疑問符を浮かべていて、サーハイマンは落ち着いて思索にふけっていた。
ライアーは意を決してお茶を飲んだ。非常においしかった。


家から出たレイトンは、村長を笑わすための道具の材料として、3つのものを挙げた。
ひとつ、手触りのなめらかな棒。ただし木の枝以外。
ふたつ、接着剤。とはいうもののジャングルであるので、樹液あたりで代用する。
みっつ、透き通った石。ガラスや宝石など、少し削ったりしても壊れないものがよい。

サーハイマンはレイトンの思いつきに心当たりがあるらしく、二人はスムーズに条件を述べていった。
わからないのはレミやルーク、アーリア、そしてライアーだ。

「そうそう、この道具は、この土地に元々あるもので作りたいんだ」
「材料は全部、この村周辺で手に入るものですね」

レミが手帳にメモする。
ライアーは条件を聞いて、作る道具を予想した。

「……弓か?」

美しい装飾のなされた弓が、彼の脳内に浮かんでいた。




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