17 推理で糾問


ライアーが思考を巡らせている間にも、レイトンとブルーマイルの攻防は続いていた。

「あなたは、博物館で起こっている連続盗難事件の担当者だそうですね」
「ええ、そうですが」
「警備情報を知り、博物館の中に入ることができたのは警察関係者のみ。あなたならば知る事ができますね」
「そもそも、警備の指示を出したのは私ですからね。当然知っています」

ブルーマイルは口許に手をやった。反省している、といった具合にうなずく。

「盗まれたのは、私の読みが甘かったのでしょう」
「………」

レイトンは腕を組んで、じっくりとブルーマイルを見た。観察するように、次の一手を繰り出すタイミングを計る。
ブルーマイルも手を降ろし、レイトンへ意識を戻した。二人の瞳がぶつかる。

「ですが、あなたは捜査の結果、盗まれた品を全て取り返しました。素晴らしい手腕ですね」
「自分の不始末は、自分の手でカタを付ける。ただそれだけのことですよ」
「取り戻したオーパーツは、博物館に戻されるまでどうしていましたか?」
「私が管理していましたよ。それに何か問題でも?」

ひどく落ちついた会話だった。
静かに静かに山を崩すようでもあったし、視界がなくなるほど激しい撃ちあいのようでもあった。
取り囲まれた夜に燃える、街灯の赤いゆらめきにも似ていた。

「となると、やはりあなたが犯人ということになりますね」

レイトンは、唐突に推理を打ち切った。

「あなた以外の誰にも、遺物をすり替えることはできなかった」
「……まさかそんな理由で私が犯人だと?」

明らかに失望した様子で、ブルーマイルは背もたれに寄りかかった。
ふう、とため息が零れる。

「どうやらあなたを買い被っていたようですね」

組まれた指が解かれた。姿勢を戻し、ブルーマイルは「あなたの推理には多くの穴がある」と言って片手を揺らした。

「そもそも私が管理していたとはいっても、四六時中見張っていたわけではありません」
「………」
「他の警部や部下たちにだって、すり替える機会はいくらでも…」
「――そこですよ、ブルーマイル捜査官」

すかざず、レイトンが口を挟む。

「…なに?」
「あなたはどうやって、遺物がすり替えられていると知ったのでしょうか?」

ブルーマイルが、わずかに眉をひそめた。

「それはもちろん……」
「すり替えられていたという事実は、先ほど、私が確かめてきたばかりです」

レイトンは先回りして、顎に手をやった。
指を一本、ぴんと立て振り返る。レミとルークを順番に見て、聞いた。

「レミ、ルーク。館内にいた警官は、盗まれた物について何と言っていたか覚えているかい?」
「たしか、捜査官が優秀だから、盗まれたものは全て取り戻したって言ってました」
「取り戻したものが偽物だなんて、全く思っていませんでしたね」
「そう。まだ私たちの他に、それを知る者はいないはず」

レイトンの手が下ろされ、瞳が褐色へ向いた。

「ブルーマイル捜査官。あなたはそれを、いつ知ったのでしょう?」
「………」

大手だ、とライアーは思った。



「…何を言い出すかと思えば」

チェックメイトかに見えたブルーマイルの声は、未だ平然を保っていた。

「あなたが言ったのですよ。オーパーツをすり替えて盗んだばかりか、とね」

ライアーは、会話を思い起こしてみた。言うとおり、最初にその意味の発言をしたのはレイトンだった。
しかし、持てる情報を合わせれば、彼が犯人であることは明らかだ。あとは証拠か自白だけ。
ここまで来ても、まだ追い詰められないのか。

「確かに私はそう言いました」

レイトンが認めた。

「ですが、おかしいと思いませんか?」
「なにを…」
「取り戻した遺物がすり替えられている、と言われたとき、あなたは驚かなかった。さらに事実かどうか確認もせずに、それを受け入れているのですよ」




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