11 資料室で捜索


資料室の照明は弱く、また、中は埃っぽかった。
古い紙のにおいがする。紙が保存されているところは、みな似たような環境になるのだろう。
ライアーは大学の教授部屋を思い出して、少々親近感が湧いた。乱雑な様子もよく似ている。

「資料室って、なんか薄暗いですね。しかもちょっとカビ臭いです…」

ルークがげんなりとする。
ライアーはすこしだけ傷ついて、帰ったら掃除だけはちゃんとしようと、心の中で誓った。

「怖いのなら、ルークは上で待っていてもいいのよ?」
「そんなことしません。レミさんより先に資料を見つけてみせますからね!」
「あら、負けないわよ!」

レミとルークが言い合って、明るい笑い声が響いた。頼りない光の中でも、二人は元気いっぱいだ。

「…でも、タージェントの資料って、どんなものを探せばいいんでしょう?」

ルークは難しい顔をした。

「タージェントの狙いは、アスラントの遺物だからね。盗難事件の資料を中心に探してみよう」
「この資料の多さだと、調べるのにかなりの時間が掛かりそうですね」

レミがあたりを見回す。
レイトンたちは手分けして資料を探すことにし、各自で棚を調べ始めた。
特にルークは、はしごを使ったりして熱心に資料を確認している。床にあった推理小説や、出しっぱなしのファイルに怒ってもいた。規定の位置にしまわれていないのが嫌なようだ。
彼は確実にクラークの血を継いでいるな、とライアーは思った。


資料はなかなか見つからず、ライアーは休憩を兼ねて上へあがる事にした。
サーハイマンと交代し、アーリアに付く。アーリアは素直について来て、二人はロビーで日の光を浴びた。

「ライアーさんは、本が好きなのですか?」
「ん?」

窓の外を眺めていたアーリアが、振り返って尋ねた。
ライアーは長椅子に座り、季刊トリシラベを手に持っていた。

「ああ、好きだよ」
「これは、本ですか?」
「それは雑誌と呼んでいるな」

アーリアは、物珍しそうに警察雑誌をめくった。スピードから察するに、文字を読んでいるわけではなさそうだった。

「アーリアの時代は、雑誌はこの形じゃなかったのか?」

ライアーはふと思いついて聞いた。

「わかりません」
「そうか」
「…すみません」
「いや、謝ることはないよ。ちょっと思いついただけさ」

申し訳なさそうにするアーリアを撫でると、ライアーは「悪いな、職業病だ」と謝った。

「技術力が高かったみたいだし……紙じゃない、別のなにかだったかもしれないな。もしかしたら、石だったかもしれない」
「それは、どうでしょうか」
「保存力にかけては、右に出るものはいないからな。石は」

ライアーは笑って、別の絵本を差し出した。
アーリアは警察雑誌を横に置いて、今度はそれを眺めはじめる。飛び出す絵本だ。
警官は相変わらず忙しそうにしているが、そこに流れているのは静かで優しい時間だった。




「ライアー」
「レイトン」

しばらくして、レイトンたちが戻ってきた。アーリアも顔を上げる。

「なにか見つかったのか?」
「実はあの博物館、5回も盗まれていたんです」

レミが、メモした手帳を開きながら言った。

「5回も?」
「だけど、盗まれたものは全部取り返していて…」

ライアーは顎に手をあて、頭を回転させた。
盗難品を取り返せるほどの捜査力がありながら、何度も進入を許してしまうというのは妙だ。少なくとも、対策のヒントくらい見つけられそうなものだが。

「と、いうことは……次の行き先は博物館か」
「ええ」

短い休憩時間は、終わってしまったらしい。
ライアーは立ち上がって、雑誌を元の場所に戻して絵本を見た。
今度は、アーリアに本を買ってやるのもいいかもしれないな、などと考えて、つい頬が緩んだ。




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