025


 海へ気を取られていたライアーの耳に、背後から大きな爆発音が響いた。
 驚いて振り向く。

「!?」

 先程の物体が、巨体のあちらこちらから火花を散らしていた。
煙があがり、ふらふらと左右に揺れる。遠ざかっていこうとしているようだ。
 とたんに浮かぶ、一人の男の存在。可能性。
あんなものを作りたがる奴は、この島には彼しかいない。

「デスコール……!」

 ただならない雰囲気のそれへ、ライアーは一直線に走り出した。




 しばらく走ると、ライアーは森の中に横たわるその姿を見つけた。

「お、おい!」

 急いで駆け寄る。
途中、折れた枝葉が視界に入った。

「あの高さから飛んだのか? 心許ないにも程がある!」

 上から力がかかったのだろう。付近の木々の枝が、下へと折れているのがわかる。
外聞を気にする彼の服には、似付かわしくない葉がついたままである。
 経緯は不明だが、落ちてきたらしいと推測できた。

 慎重に、様子を確かめる。
 手には焦傷。その付近から、ちぎれたコードが地面に伸びている。ロープ代わりにでも使ったのだろうか。
 歯車や鉄板くずも落ちている。細い鉄骨や帆布も見える。グライダーの可能性もありそうだ。

 しかしライアーは、検討を始める思考を無視し、デスコールへ応急処置を施した。手早く済ませ、動かない彼の横へ並んで座る。

 この男のことだから、こうなった場合の対処も部下に指示しているのだろうとは思うが。

「……頼むから。死んでくれるな」

 息さえ静かなデスコールを見つめるライアーの口から、小さな声が漏れた。
夜風が周囲の草を揺らす。濡れたライアーの髪から、一滴の雫が落ちた。



「――ライアーさま」

 落ち着いた声がして、ライアーは顔をあげた。
 そこにいたのは、仮面の男たちを引き連れた老年男性。
豊かな髭を蓄えた彼は、デスコールの執事――レイモンドだった。

「私がお預かりいたします」
「……落ちたみたいなんだ」
「ええ、存じ上げてございます」

 レイモンドはうやうやしく頷くと、仮面の男たちにてきぱきと指示を飛ばした。
 男達が手際よく、デスコールをタンカに乗せ持ち上げる。ライアーはそれを座り込んだ状態のまま眺めた。

「ライアーさまは、いかが致しますか?」

 レイモンドが言う。視線はデスコールに向いたまま、ライアーに背を向けたままだった。

「俺は部外者だから、捨て置けと言うと思うよ」

 ライアーはしんどそうに体を持ちあげ、眉を寄せた。息をついて、

「……あまり無理するなと、…言っておいてくれ」

独り言のように言って、その場を立ち去った。


 レイモンドは、見えなくなった背中に深い礼を送る。

「…かしこまりました」

意識のないデスコールへ向き直り、参りましょう、だんな様。とつぶやいて消えた。




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