02 谷間にて


洞窟内を駆け足で進むと、道が途中で途切れていた。
深い谷だ。脇に自然発光する鉱石が置かれているが、やはりと言うべきか、底は見ることが出来ない。
よほど気温が低いのか、水蒸気になりきれない水分が霧を作っていた。視界を遮られるほどのものではないのが幸いだ。

「あれは……ルーク!」

洞窟は向こう岸に続いており、ブロネフ達と進んだはずのルークが一人で立っていた。
周囲にタージェントの姿はない。

「ボウヤは置き去りか。ヤツらを追うにしろ、ボウヤを助けるにしろ、この断崖を渡らねばならんようだな」

デスコールが「ふむ」と唸って顎に手を当てる。

「さて、レイトン。この奈落をどうやって渡る?」
「たしかに、このまま向こう岸に渡るのは不可能だ。なにか仕掛けがあると考えるのが妥当だろうな」
「ああ。アスラントの人々が神殿をよみがえらせる気だったのなら、必ずここを渡るための手段があるはずだ」
「道も探せないようでは、先へ進む資格なしということか」

レイトン達は周囲を注意深く観察した。
ランプがわりの鉱石には、なにも怪しい所はない。柱のように立っている岩を見て、ライアーが声を出した。

「レイトン! これ…」

くぼみにメダルがはめ込まれて円を描いている。どことなく違和感を感じる配置だった。

「怪しくないか?」
「そうだな。おそらくこれが道を作るカギになるはずだ」
「よし、俺にやらせてくれ。ナゾトキタイムだ」

ライアーはメダルの法則性を理解すると、次々にそれをはめ込んでいった。
一枚はまるごとに振動が起こり、谷底から床がせり上がってくる。


「…ラスト」


最後の一枚をはめる。
と、断崖には光る石の道が完成した。

ライアーは振り返って笑う。

「どうだい? これが俺のナゾトキだよ」
「ふむ。なかなかだ」
「准教授としては当然だよ、デスコール」
「早く教授になれ」
「上が空いたらな」

レイトンは一足先にルークへ駆け寄り、怪我はないかと聞いた。
涙ぐみながらも、ルークは傷もなく元気そうだった。

「置き去りにされたようだな、ボウヤ。なぜお前だけがここにいる?」
「デスコール…! 先生、どうしてこんなヤツと一緒にいるんですか!!」

ルークはデスコールを指差して睨んだ。
自分も指差ししてしまった後では、人を指差してはいけないと注意するのが躊躇われる。ライアーはなんとも言えない顔をして成り行きを見守った。

「フン、ブロネフを止めるという目的は同じだ。ここは協力しておいたほうが賢明だろう」

デスコールが火に油を注ぐような言い回しで答える。

「誰がお前なんかと!」
「ルーク、デスコールの言う通りだ。今はいがみ合っている場合ではない」
「でも先生…」
「ブロネフたちはなぜキミを置いて行ったんだい?」

レイトンは両肩に手を乗せ、目線を合わせるようにして訊ねた。
するとルークはそうでした、と冷静さを取り戻し、

「先生、レミさんはボク達を裏切ってなんかいないです!」
「どういうことだい?」
「レミさんはボクを逃がしてくれたんです…」

連れて行かれた後の様子を説明し始めた。
ルークによると、レミにはなにか事情があるように見えたという。ルークにじっとしているよう言って、ブロネフやアーリアたちとともに先へ進んだらしい。

「レミさんは“アスラント文明をよみがえらせたらおじさまは昔のように優しい人に戻ってくれる”って…。先生ならブロネフを説得できるかもしれないって言ってました」
「………」

レイトンは黙る。
そして「そうか」と言って立ち上がりふり向いた。
その顔に動揺は見られなかった。

「ブロネフ達を追いかけよう。レミの考えも、きっとそこでわかるはずだ」





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