03 大鳥の謎


ロクスの家は、路地をさらに先に進んだところにあった。
一人で歩いたら迷ってしまいそうな、カクカクとした曲がり角の多い路地だった。かくれんぼにはちょうど良さそうだな、とライアーは思う。

「ここがオレの家さ。さ、入って」

言われて部屋へ入ると、食欲をそそるスパイシーな香りが鼻をかすめた。薪の上に、珍しい色のカレーが入った鍋が乗せてあった。
奥のベッドの上で、女性が眠っている。ロクスの母親らしい。

「こんな風に眠ったまま、ずっと目を覚まさないんだ」

サーハイマンは、ベッド脇に椅子を持ってきて座った。女性をよく観察し、脈をはかる。
しばし無言の時間が過ぎて、

「脈や外見に異常はないようだが」

一言、結果を漏らした。

「原因はわからないのかい?」
「わかってたら、とっくに起こしてるよ。とにかく普通の眠りじゃないんだ。ゆすっても名前を呼んでも起きないし、町の大人みんながこんな感じでさ」

お手上げだというように、ロクスは顔をしかめた。
少し離れて立っているレイトンが、難しそうな顔をして顎に手を当てる。ふむ、とつぶやく。
サーハイマンも思案顔で女性を見つめ、ライアーは、その後ろで首をひねった。女性は健康そうに見える。不思議な現象だった。

「ねえ、さっきおじさんたちは伝承について知りたがってたよね?」

ロクスが呼びかけ、全員の目が彼に集まった。

「この町には全ての病を治す、不死鳥の伝説があるんだ。だからその不死鳥をよみがえらせて、眠っている大人たちを起こせないかな」
「不死鳥を?」
「そいつがよみがえるときに流す涙は、ありとあらゆる病を治すって聞いてる」

サーハイマンは目を細め、ライアーは困った顔をした。とても魅力的で、非常に現実味のない案だった。

「…それ、本当なのか?」

ライアーは聞いた。

「本当だよ、長老から聞いたことがあるんだ。もう覚えてないくらい小さい頃だけど、不死鳥がオレの病気を治してくれたって」
「申し訳ないんだが…、余所者の俺たちにとって、それは、…にわかには信じにくい話だよ?」

ライアーは言いにくそうに、右の掌を見せた。言葉を選ぶような速度だった。

「でも、それしか思いつかないんだ」
「誰かいないのか? 他にそれを知っているような人は」
「言っただろ。町の大人たちは、みんな眠ったままだって」
「うーん…」

ふりだしに戻ってしまったな、とライアーがつぶやく。

「ロクス君。興味深い話ではあるが、私たちには果たさなければならない目的がある。そのために、大人に話を聞きたいんだよ」

サーハイマンが突き放すようなことを言って、

「だから、みんな眠ってるんだって!」

ロクスが声を荒らげた。

「そんなに話が聞きたかったら、オレが町を案内してやるから! 不死鳥を蘇らせるのを手伝ってよ!」





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