08 道ひらく歌


「ちょいと、あんた達!」
「ブリジットさん! どこに言ってたんですか?」
「シーッ!」

村へ戻る途中、きょろきょろとあたりを見回しながら声をかけてきたのはブリジットだった。
ブリジットは、村の女性が代々花嫁の手引きをしていたと明かし、

「竜神の花嫁なんてのは、家出に駆け落ち、なんでもござれだ。男どもには言わないだけだよ」
「やっぱり、花嫁は脱出していたのですね」
「おや、感づいていたかい」

レイトンも、あっさりとその事実を受け入れた。聞くところによると、排他的な集落ではよく見られる傾向らしい。

「つまり、ナゾでもなんでもなかったのか?」
「可能性はあったというだけだよ」
「博士が落ち着いていたのも、もしかして…?」
「ああ。考えうる結論のひとつとしてはね」

それを確信に変える裏付けが足りなかったが。と、こともなげに言われ、ライアーは憮然とした顔をつくった。
お前らの思わせぶりな態度はなんとかならないのか? という文句が口先まで出かかる。

「それじゃ、ジュリアさんも脱出できたんですか?」

レミが期待を込めて聞くが、ブリジットが答えたのは真逆の内容だった。

「それなんだよ。あの子ときたらホントのバカだ。“竜神様の怒りを鎮めるんだ”って、テコでも動かないんだ」
「ええっ、そんな!」
「あたしがノコノコ戻ったりしたら 舌噛んで死んでやるって勢いだもの」

ブリジットは深いため息をついて、片手をほほに付けつつ肩を落とした。レミは困ったようにレイトンを見る。
すがる瞳に見つめられたレイトンは、ブリジットに言った。

「マダム、私たちはこれから、ロミーさんを説得して森に入ります」
「ロミーを…」
「ジュリアさんの事を愛しているロミーさんならば、あるいは受け入れてもらえるかもしれません」
「そうです。だから、私たちにおばさまの通った道を教えてください!」
「………」

ブリジットが黙る。
やがて観念したように地面に目をやって、

「そう……確かに、そうかもしれないね」

ブリジットは歌い出した。
それは、村の女に伝わる子守歌。抜け道の道順を示す暗号であった。

一行はブリジットに礼を述べ、急いでロミーのいる風車小屋へ引き返した。ロミーは、いまだに落ち込んでいた。

「ロミーさん、ジュリアさんを助けに行きましょう」
「またあんたたちか…」

表に出ていたロミーは、うんざりといった様子で再び小屋へ戻ろうとした。それを引き留め、レミが拳を握る。

「ジュリアさんは助かるのよ!」
「祠へ続く道がわかったのです。この先の森を通り抜ければ、洞穴があるそうです」
「…なんだって!?」

ロミーは、レミが驚くほど早く立ち直って、空中に手を差し出した。片足をつき、騎士が姫に示すような、演技がかったポーズをとる。

「おお、ジュリア!! まさか君を救うことができようとは!」
「シーッ!! 他の人に聞かれると大変です!」
「それじゃ小屋の中へ入ろう!!」

軽く跳ねながら、ロミーは小屋へ戻った。
一同は、あっけにとられながらそれを見送った。
ハハハ、頼もしい限りだね。とレイトンが笑った。





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