08 未来の部屋


男は、自分が持っている最高のチケットだと言って、3枚の宿泊券を置いていった。あの後また、2人部屋に6人泊まれるといったウソをついたので、むしり取ったと表現したほうが正確かもしれない。

高級ホテル、マルチノ・リゾートの宿泊券だった。
せっかくもらったのだからと、レイトンたちは遠慮なく使うことにした。
レミとアーリアが印象的な不思議の部屋、レイトンとルークが漫画のような夜の部屋、そしてサーハイマンとライアーが浮世離れの未来な部屋と、各部屋には名前が付いている。それぞれ特徴があるらしい。

「すごいな、この部屋は…」

ライアーが扉を開けると、まずウォールアートが飛び込んできた。黒いクラシックカーだ。
ぐるりと首を回す。床に置かれた時計塔型のスタンドには、電球が取り付けられていた。電球は、歯車を模しているようだ。
電気をつけると、割れた鏡のような模様に光が反射して、天井が輝いた。看板型の額縁が存在感を増す。

「さすがは最高級。手がかかっているな」
「ふむ…。電気の光はあまり好まないが、工夫は認めよう」

サーハイマンがえらそうに言った。

「色が切り替えられるようだな。もう少し眺めるか?」
「いや、目が痛む。変えてくれ」

ライアーの返事に、サーハイマンは壁のスイッチを押した。眩しいくらいの攻撃的な光が消えて、かわりに温かみのある間接照明がつく。
雰囲気がかわり、部屋はまるで夕焼けのようになった。

「これもいいな…」

ライアーが感心してつぶやくと、

「博士―、ライアーさーん」

ノックの音とともに、ルークの声がした。
サーハイマンが扉を開ける。

「部屋が見たくて来ちゃいました」

ルークはかばんを下ろした軽装だった。一歩なかに入って、あんがい普通ですねとつぶやいた。

「そうでもないよ、ルーク君」
「どういうことですか?」
「さて、それはナゾにしておこう。キミに解けるかな?」
「えーっ!?」
「部屋は自由に見てかまわないよ。さあ、解いてみてくれたまえ」

そうして、ルークは部屋を調べ始める。二人のユカイな会話を背景に、レイトンはライアーに話しかけた。

「しばらくしたら食事に行こう。海岸通りの閉まっていた店が気になる、と言っていたからそこにしたけれど、かまわないかい?」
「ああ」
「レミには伝えておいたよ」
「わかった」

ふと、ライアーは思いついて「レイトン」と呼びかけた。

「なんだい?」
「ここにはバーもあるみたいなんだが、どうだ? 久しぶりに」
「そういえば…、調査から帰ったら飲もうと言って、そのままだったね」
「サーハイマン博士も誘ってさ」

レイトンはしばし考える様子を見せ、

「残念だけど、止めておくよ」
「なんだ。付き合い悪いな」
「行きたいのは山々だけれど…英国紳士としては、遅く帰ってルークを起こすわけにはいかないからね」
「そうか…そういうことなら仕方ないか」

ライアーはすこしだけ残念そうに引き下がった。「大事な息子さんを預かってるわけだしな」

カチ、と電気のスイッチが切り替わる音がして、部屋の光が変わる。ルークがナゾを解いたようだった。楽しそうな声が聞こえた。

「ふむ、これはすごい」
「だろ?」

ライアーは笑って、

「じゃあ、旅を終えたら三人で飲もう。ロンドンでも、どこでも」

レイトンがいいね、と同意した。

「ルーク、そろそろ消してくれ。目が――」
言いながら、ライアーとレイトンは部屋の奥へ向かった。と、そこで言葉を切る。
「おお…」
「まさか、部屋にもあるとはね。驚いたよ」

そこは、水中を泳ぐ魚の群れだった。
壁の一面がガラスになっていて、ロビーの水槽の一部が見えているらしい。

「きれいだな…」

この世のものとは思えないくらいに幻想的で、とても美しい。
なんだか夢の世界にいるみたいだなあ、とライアーは目を細めた。大きな影が横切っていって、姿を消した。



END




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