質屋の長い午後01


やあ、みなさんこんにちは。
俺の名前はポッチ・ステーション。ラビリンスシティに一軒しかない質屋で働いている、しがない若者です。

店の主の名前はハッチ。
店は朝早くから夜遅くまで、いつでも売ります買いますをモットーに営業中。そして俺も、ただいま店番中。

お客は騎士からあらくれ者まで様々だけど、たいてい、質屋を利用する人間ってのは決まってくるもんです。
だから客の相手は余裕のヨッチャンというヤツだったんだけど、目の前に立つこのオジサン。

少々ヤッカイな常連さんが、今日もやって来たのでした。



「毎度ドーモ、ええと……」

たしか一度名前を教わったんだけど……エミルルさんだっけ? よく覚えてません。
よく来るオジサンとか、ミルク売りのオバサンとか、そんな呼び方でわかっちゃうんだよね、この街は。

「なんですか? コレ」

言いながら、俺は掲げられた商品を眺めました。

キラキラと輝く、黄金の腕の像でした。
つるんとした指先が、音を立てそうなくらいまっすぐ突き出されていました。
……なんだか刺さるような。物質ではなくて、自分の知っていることを洗いざらい吐いてしまいそうな。
思わずそんな気持ちになっちゃいそうな、心に突き刺さる指でした。

なんかの芸術品といったところかな、と予測をつけると、オジサンは勝手に説明を始めました。

「突き出された指先がビシイッ! っと語るのはすなわち輝ける明日! これはオレっちに語りかけているのさ、明日を探せと!」
「…………」

うん。ワカランぞ。
俺は心の中で呟きました。

純金度は高そうだから買い取るのはやぶさかじゃないんだけど、オジサンは少しでも高い値をつけようとふんばります。
手を振り指を振り、聞くも涙語るも涙(ただし泣いてるのはオジサンだけです)、とにかく語る語る。…長い。

だいたい。オジサンはよく来るけども、お金を返してもらった覚えがありません。持って来る商品も、なーんかアヤシイ。
盗品は受け取らないなんて信条を掲げているわけではないけれど、盗むならもっとセンスがいいモンを盗めよと言いたくなります。

これだって、質はいいけど美術的価値があるとは思えないし。
俺はこんな置物よりも金塊の方が欲しいね。溶かすしかねーんじゃねーの?

なんて思ったワケです。

だけどコレが存在するってことは、飾ってたヤツがいたんだろうな。
と考え直して、芸術ってのはムズカしいとつくづく思った時のことでした。

「おいポッチ、なにをやっているんだ」
「あ、ハッチさま」

奥で壺を並べ替えていた、主のハッチさまが出てきました。
もちろん俺は目線でオジサンを指しました。旦那の眉間に一瞬でしわが寄ったのが、一目でわかりました。

「エミール! またお前か!」
「ハッチ、コイツを買い取ってくれよ! 至高の芸術だぞ!」
「はあ? いったいナニを言っているんだ?」
「俺にもワカリマセン」

俺は説明を放棄して、輝く腕を指差しました。
ハッチさまはアキラカに嫌そうな顔をして、でも丁寧にオジサンの話を聞きます。
客商売ってやつはタイヘンですよね。俺のことだけど。

十分に話を聞いて、十分に鑑定をした後、旦那は俺が予想した金額にチョッピリ色をつけた代金をオジサンに渡しました。

「ハッチさま、いいんですか? アレ」
「金の純度は申し分ないんですがね」

旦那は店長モードが抜けきらない口調で、がっくりと肩を落としました。
背中に“面倒”って字が見えた気がしました。

俺は飛び跳ねて帰るオジサンを見送りつつ、さてこの純金の像はどこに置くべきかと、うんうん頭を悩ませるハメになったのでした。




……ところが、この件はこれで終わりじゃなかったんです。

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