傍らには茶器を添えて


「‥‥ナゾミさん」
「アンサーさん」

全てが解決して、俺は再びラビリンスシティに戻ってきた。
いや、元・ラビリンスシティと呼んだ方がいいんだろうか。俺が治療を受けている間にイロイロあって、今はみな、新しい町の形を探しているとのことだった。

「なんというか‥‥‥ヨミガエってきちゃいました」

ナゾミさんは白い服を着ていた。明るい日の光で見るそれは、キラキラ輝いて見えた。かわいかった。
俺は少し安心した。キオクをなくし、そしてすべて思い出した自分が‥‥、この町で暮らしていた自分とは全く違っているのではないかと、すこし怖かったのだ。

「アンサーさんは亡くなっていなかったのですね」
「そうみたいですね。森にいた時のことは‥‥ちょっとよく覚えてないけど」

俺たちはフタリ並んで大図書館に入った。ひさしぶりだった。

「‥‥アナタが魔女の被害にあったと聞いたとき、わたくしは目の前が真っ暗になりました」
「え‥‥‥」
「まるで魔法にかかったように、ナゾが解けなくなってしまって‥‥」
「‥‥‥‥」
「必死で治しました。わたくしは、大図書館の司書。書庫のカギですから」
「さすがナゾミさんです」
「‥‥‥けれど、ピースが足りないのです。心に宿った重いパズルの」
「‥‥パズル?」
「ナゾを解くためのカギは、アナタです」
「あの、ナゾミさん?」
「ここまで言えばわかりますね?」
「‥‥スイマセン。俺アタマわるいんで、あの。サッパリなんですが‥‥」
「なぜわからないのですか!」
「わ! なんかスイマセン!」
「レイトン様ならこのくらい、すぐに解き明かしますよ!」
「だれっすかソレ!?」
「――ボクでもわかりますよ」
「ぶ、ブック!?」
「いたのですか!?」
「つまりナゾミさまはアンサーのことが、」
「ッ! お黙りなさい!!」
「うわ、とと、うわああああ!!」
「おわっ! ブック!」

ブックはハデにすっ転んで、盛大に本をぶちまけた。
器用だし力持ちだし、圧倒的に人手が足りないのはわかってるけど‥‥、毎回毎回、ブックは本を持ち過ぎだと思う。前、見えてないに違いない。

「それを運び終わったら、しばらく棚の掃除でもしていなさい!」
「わかりましたよお」
「あ、ブック! 俺も手伝うよ!」
「え」
「え」
「ナゾミさん、魔法関係をダンボールにつめればいいんですよね?」
「え…ええ、はい。‥‥‥ではなくて! まだ話が」
「わかってますよナゾミさん。身近な人間が魔法事件に巻き込まれたら、誰だってショックですからね」
「え?」
「俺ならいくらでも使ってくれてかまわないですから! 身長でも体重でも筋肉でも、なんでも貸しますよ! 一緒にナゾを解きましょう!」
「あ、あの‥‥」
「終わったらお茶にしましょーねー!!」
「あ‥‥‥」

アンサーさんは盛大に騒いで、本を抱えて走り去りました。
わたくしは“館内では走ってなりません!”と注意するのも忘れて、ボーゼンとそれを見送りました。脇の方で、ブックがそそくさと逃げていく気配がしました。

「相変わらず、騒がしいお方です‥‥」

わたくしは少し安心しました。キオクをなくし、そしてすべて思い出した彼が‥‥、この町で暮らしていた彼とは全く違っているのではないかと、すこし怖かったのです。

「それと‥‥実はニブイのですね。アンサーさん」

わたくしはお茶の準備をすることにしました。品種は、彼がよく淹れてくれたものにしました。
彼はお茶を淹れるのがとても上手だったのですが、いったいどこで身につけたのでしょう? どの銘柄がお好きなのでしょう?


それも、これから知っていけば良いことです。
だって、この町の季節はまだまだ続いていくのですから。


(130409)

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