本を読みましょう02


「こんにちはー!」
「ええ、こんにちは。そしてお静かに」
「ナゾミさん!」
「はい、なんですか?」
「ここを出て新しい暮らしをしましょう!」
「な‥‥! い、イキナリ何を言うんですか!」
「いわゆるひとつのプロポーズです!」
「ふざけないでくださいッ! 第一、大図書館を空けるわけにはいきませんッ!!」
「そういうセキニンカンの強いとこもミリョクですけどね。たまには息抜きしないとダメですよ」
「息抜きならできています。余計なシンパイは無用です」
「ホントにですか?」
「…なんですか」
「俺は新しい人生を歩みたいんです。でもナゾミさんが隣にいないと駄目なんです。俺はナゾミさんと一緒に並んで座りたいんですよ」
「な、ナニをおっしゃっているのかわかりません!」
「俺はナゾミさんとなら、どんなナゾも越えて行けるっすよ!」
「ナゾはひとりで解くものです!」
「‥‥‥読書と同じですよ」
「?」
「ヒトリでも読めるけど、フタリで読むのもいいじゃないですか」
「‥‥‥‥」
「ね、ナゾミさん。一緒に暮らしましょう」
「…お断りいたしますわ」
「‥‥ナゾミさんは、今の暮らしが気に入ってるんですか?」
「ええ、もちろんです」
「新しい可能性とか‥‥、三度目の正直に賭ける気はありませんか?」
「ありません」
「‥‥‥‥‥」
「だいたい、三度目ってなんですか。言葉は正しく――」
「わかりました」
「‥‥‥。なんですか?」
「なら俺が通います!」
「ナニを言ってるのですか!」
「いわゆるひとつの通い婚です! 大丈夫、いつまでだって待ちますよ! 安心してください!」
「意味がわかりません!」



「ナゾミさんナゾミさん」
「‥‥あんなこと言っておいて、よく来られたものですね」
「そりゃ来ますよ。大図書館は町の住人みんなに開かれた知識の泉じゃないっすかー」
「‥‥‥‥そうですね。致し方ありません」
「今日読むのはですね、」
「コチラがオススメです」
「‥‥‥。もう用意してくれないかと思ってました‥‥」
「“明日も来ます”と威勢よく宣言されては、本を用意するのは当然のことですわ。‥‥大図書館の司書として」
「わかりました! 今日はそれを読みますッ!」
「ええ。お静かに」


「そろそろ帰りますね!」
「帰る時くらい静かにできないのですか、アナタは‥‥」
「それじゃあまた明日! さようならナゾミさん!」
「ええ、さようなら」



「ナゾミさんナゾミさん」
「ええ、なんですか」
「もうすぐ冬が終わりますね」
「そうですね」
「俺‥‥居る時間へっちゃいますね」
「‥‥‥‥」
「でもでも! ナルベク来ますから!」
「羊を逃がしたらどうするのですか。しっかりオシゴトなさりなさい」
「ちょっとでも一緒にいたいんですよー」
「‥‥はずかしいことをおっしゃいますね」
「もう時間がないんですよ」
「ナニを言っているのですか。まだ冬も終わっていませんよ」
「‥‥‥‥」



「…ナゾミさん」
「あら、こんにちは。今日は何をお読みになりますか?」
「ナゾミさん、スイマセン」
「どうかしましたか?」
「俺がんばったんですけど‥‥思い出したのバレちゃったみたいで。ほんとスイマセン」
「‥‥‥なにをおっしゃりたいのか、よくわかりませんが‥‥?」
「ええ、いーんです。わからないほうがいいんです。たぶん」
「アンサーさん?」
「ただ、ナゾミさんは頭がイイから。俺のこと‥‥アンサーって男のこと、覚えていてくれるかもしれないなって思っちゃって。つい。‥‥勝手ですけど、会いたくなっちゃって」
「アナタのような騒がしい方、忘れたくても忘れられませんわ」
「‥‥そっすか。うん。嬉しいです」


「じゃあ、俺読みますね。ナゾミさん」
「ええ、わたくしも。アンサーさん」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「おもしろいですね、コレ」
「ええ、おもしろいですわ」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」


「それじゃあ、俺、市場に行くんで」
「森を通るのですか?」
「そうですね」
「お気を付け下さいね。もう暗いですから」
「優しいっすね、ナゾミさん。ランプありがとうございます」
「また明日、お待ちしておりますわ」
「ええ。さようなら、ナゾミさん」

「この本の続き、楽しみにしてます」


***


数日後、一人の魔女が火刑に処された。
現場は森の小道。遅く暗い時間帯であった。

被害者は羊飼いの青年。名前はアンサー。
異界からの来訪者が来るのは、もうすこし先のことである。





「あのー、すみません。本が読みたいんですけど‥‥」
「こんにちは。本がお好きなのですか?」
「そりゃあもう! いままでここに来なかったのが不思議なくらいですよ!」
「ふふふ‥‥ここは本を求める者に開かれた知識の泉“大図書館”。わたくしは司書のナゾミですわ」
「ナゾミさんかァ…いい名前ですね!」
「アナタ、お名前は?
「ええナゾミさん。俺の名前は――」



(130408)

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