シノニムを求む


今思えば、正気を取り戻せただけで十分だったのだ。あわよくば息子もなど、あさましい話だった。
崩れ落ちていく遺跡の横で、私の全てが湖に沈んでいった。長年求め続けた答え、探し続けた力、叶うはずだった夢が、全てが。ばらばらに壊れて消えた。
あとに残ったのは自分の犯した罪の数々。脇に立っていた人間へ呟いた、贖罪と微かな希望を込めた言葉は、受け取られることなく弾かれ死んだ。当然のことだった。

エルシャールという名前を知っているかな。

彼はずっと正面から私に向き合って来てくれていた。かつてその名を持った男と、今その名を持つ男だけが。彼らだけが、私を止めるほうへ動いてくれた。小さなころ、大きくなってから、そして最後。私でさえ止められなかった大きな流れを堰き止めてくれたのだ。
…なんだい? ああ。
そう、彼は二人いたんだ。名前は一つだがね。勇ましい男だった。本当に感謝している。

話を聞いてくれてありがとう。私はブロネフ・ライネル。妻はレイシー。息子はいない。


「――キミの名は?」





そう言ったあの人は、最期まで現実に帰って来なかった。彼は逃げたのか、それとも治ってなどいなくて、心の崩壊はあの時からずっと止まらぬままだったのか。
埋まりゆく棺を見て私は考えた。あっという間だった。彼は遺跡と運命を共にするかのように、しばらくして。

死んだ。


彼は何者であったのか。
今となっては永遠に知りえぬことだ。

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