天才科学者と准教授


自分を呼ぶ声に振り返ると、そこにいたのはドン・ポールだった。

俺の前に現れる彼が、変装をしていることは少ない。けっこう特徴のある顔をしていると思うのだが、その理由は彼の目的にある。

「最近のレイトンはどうだ?」
「どう、と言われても……」

ミスター・ポールは、レイトンに積年の恨みがあるという。
以前聞いた長い長い訴えによると、“レイトンをこてんぱんに打ちのめして、彼が恰好悪く「まいった、君にはかなわない」と言う様子を見ながら、勝ち誇った顔で高笑いしたい”のだそうだ。

よくよく原因を聞けば、様々な劣等感が絡み合っているみたいだった。
研究室に入ったのが遅かったのに論文が認められているとか、自分が片思いしていた女性に好かれていたとか、奴の顔が整っているとか髪の毛が豊かだとか。最後の理由はもう、逆恨みの域ではないかと思う。

「相変わらず、寝るのを忘れて研究に打ち込んでますよ」

俺が答えれば、彼はひどくショックを受けたような顔をして地団駄を踏んだ。

「あいつは何故そこまでしているのに髪があるのだ!」
「それは遺伝では……」
「女性にも好かれておるし」
「英国紳士が崩れないからじゃないですか?」

憤慨する彼に、やれやれと肩をすくめる。

「ならどんな時に崩れる!」

彼が悔しそうに怒鳴るので、俺は自分の体験を思い返してみた。
いつ何時でも落ち着かんとする英国紳士が崩れるのは――

「……見てて命の危険を感じるくらいの時、かな…?」

そのくらい眠っていない時のレイトンは、少々言動がおかしい。そんな時は、さすがの英国紳士も裏目に出ることがある。

「ほう……」

ドン・ポールは嬉しそうに自慢のひげを撫でた。
彼のひげはなかなか格好良くて、すこし羨ましいと思う。その顔立ちにもよく似合っている。

それにしても、だ。

「貴方も飽きませんね」

彼は、レイトンに復讐したい一心で研究の矛先を悪に向け。その前から兆候はあったが、持ち前の技術で“首領”と呼ばれる程度には有名になったという(自称の可能性もあるが)。
きっかけ自体は、もう何年も前の話だ。

「そうでなければ、研究者などつとまらんじゃろうて」
「それは…そうですが……」

俺は半ば尊敬すら感じながら、長い溜息をついた。目移りしがちな自分には耳が痛い。
しかし、その結果は世間に公表できないわけで。

「生産性のないことに拘る俺たちは、しょせん学究の徒だということかな…」
「生産性なんてものは、本人以外にわかるわけなかろう」
「ええ、まあ」
「研究者なら、研究を取り上げられるのは我慢ならん。文句なら、ワシじゃなくお上に言うことじゃな」

俺は謎解きばかりしている友人や、研究過程で生まれた技術の発表に興味のない研究者を思い浮かべる。
どいつもこいつも、なんだってその才能を無駄にすることばかり得意なのか。自由というか、惜しいというか。

「そういえば最近見かけませんでしたが、ついに費用が尽いたんですか? ミスター・ポール」

俺が意識を戻して聞けば、ドン・ポールはもう帰り支度を始めようとしていた。
この姿での長居は、やはりできないらしい。
ならば初めから変装して来ればいいのにと言うと、別の用件があるという。

「今スゴい物を作っておるのだ。完成したら招待してやろう」
「はあ」

ろくなものじゃないのだろうなと思いながら、曖昧に頷く。
彼は「絶対驚くぞ。寿命が10年縮まるくらいのぅ」と楽しそうに笑った。



ロンドンタイムスにギミックタワー事件が載る、そのずっと前の話である。



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ポールがどのくらい前から計画に関わっていたかは不明ですが、10年後の住人を演じる自分の負担を減らすために、不思議な町の住民の仕組みを利用しようと思っていた…とかだったら凄い

あと、あのまちまちの科学が政府に支配されているとかだったら怖い
レイトン界の科学発展、差がありすぎるだろう


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