とある生徒と准教授


「レイトン教授、こんちはー」
「おや、君かい?」

扉をノックしてから入ってきたのは、赤毛の青年だった。私の所属するグレッセンヘラーカレッジの生徒の一人だ。
彼は私に親しみを覚えているらしい。私の担当する考古学を専攻していないにもかかわらず、たまにこうして研究室へやって来ることがあった。
その目的は、

「また、なんか解決したみたいっすね」

新聞見ましたよ、と言ってくる彼の目的は、やはり、私が解明したナゾの中身のようだった。
入るや否や聞き出そうとする彼に、私はソファを勧める。

「まずは落ち着きたまえ。紅茶を淹れよう」
「やった! レイトン教授の紅茶、まじ美味いっすよね」
「ハハ、お褒めにあずかり光栄だよ」
「ついでに茶菓子とかありません? 俺腹減ってて」
「こら。少しは遠慮するものだよ」

一応たしなめの形を取ると、彼は「冗談ですって」と笑った。私も笑い返す。
ティーカップに紅茶を注いで、棚にあったジンジャークッキーを添えた。

「はい、お待たせ」

私はカップを置いて、ソファに腰掛ける。彼が紅茶を飲んで、クッキーを齧った。

「なんだかんだクッキーを出してくれるところが優しいっすよね」
「生徒を空腹のままにはしておけないからね」
「さっすが英国紳士。うちの教授も見習ってほしいっすよ」

彼はまた紅茶を味わう。その嬉しそうな様子に、私も顔が綻んだ。

「で、今回のナゾなんすけど」
「ああ、それはね――」


***


しばらく話し込んでふと気が付くと、ずいぶん時が過ぎていた。

「もうこんな時間だ。そろそろ帰りなさい」

私が言うと、三杯目の紅茶を飲もうとしていた彼も、はっとしたように時計を見やる。

「いや、あの……もうちょっと」
「遅くなるよ」
「できれば、みんな帰ったくらい遅い方がいいんすけど」

どことなく困った様子で言葉を濁す彼に、私は疑問を覚えた。ノックの音が聞こえたのはその時だ。

「失礼するよ」

私は彼をそのまま置いて、扉を引く。
そこに立っていたのは――。



「――俺の用事をすっぽかすとは、いい度胸をしているな」
「げっ!」

ライアーの声に、彼はしまったというような顔をした。
わたわたと手を振る。

「いやあの〜…」

焦って話す彼を、ライアーは一瞥した。呆れているか、もしくは怒っているようだ。

扉を開けて立っていたのはライアーであった。
聞くところによると、生徒の彼を探していたらしい。彼がナゾ好きなのを思い出して、私の研究室へやってきたとのことだった。

「お前の専攻は考古学じゃないだろ。授業でわからないところを聞きたくて――、なんて言い訳は聞かないからな」
「いや、レイトン教授にモテる秘訣を教えてもらおうとですね…」
「そんなもの、英国紳士でも目指しとけばいい」
「そうですね、教授ってば英国紳士が服着て歩ってるみたいなもんですもんね。うん」
「お前もオレンジのシャツを着たらいいんじゃないか?」
「いや、あれは無理」
「……君たち、ひょっとして私を馬鹿にしていないかい?」

どことなく違和感を感じて言ってみる。まさかまさか、と二人同じ動作で否定された。
ライアーが、彼に向き直る。

「手始めにまず、俺のお灸を受けてもらおうか」
「遠慮します。そう、英国紳士としては」
「気にするな。なあ、レイトン」

ライアーが私を見やった。
言及される側の彼も、私にすがるような目を向けてくる。

「ふむ…」

私は、ライアーの表情に同意する答えを返すことにした。
ライアーは挑むように笑っていたのだ。「お前なら、ここで返すべき言葉はわかっているよな?」という声が聞こえてくるようだった。
祈る彼には見えていないらしく、気の毒ではあったが。

「そうだね。誘いを受けるのも英国紳士の務めだよ」

その前に生徒の務めを果たさないとね、と私が言えば、彼は「そりゃないっすよ!」と非難の声をあげたのだった。


END




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たまには違う口調の人を書きたくなって、でもシリーズだしということで准教授に出てきてもらいました


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