エンカウント率と准教授
ライアーは一日を終え、友人の研究室へ向かっていた。部屋に集っているだろう彼の助手や弟子に、購入したばかりのクランペットを差し入れるためである。
ライアーが、シルクハットを模ったプレートのついた扉の前へ立つと、中から話し声が聞こえた。判断するに、女性と少年の声。
目的の二人がいて良かった、と口元を綻ばせながら、ライアーは扉を叩いた。
「どうぞ」
許可が聞こえ、ライアーは扉を開ける。
中では、友人エルシャール=レイトンとその助手レミ=アルタワ、それから弟子のルーク=トライトンが、そろって立ち上がっていた。それぞれの腕には、書類や小物が抱えられていた。
「あー…、取り込み中だったか? すまない」
片付け作業中かと考えたライアーは、まず謝罪を述べた。
「なら、すぐ切り上げるが」
「いいえ。その“取り込み中”がいま、おわったとこです」
ルークが、やれやれといった様子で言った。出土品のレプリカを棚に戻し、開いていた窓を閉めている。
ライアーは、疲れを見せるような弟子の少年の発言に、疑問符を浮かべた。
「どういうことだ?」
「迷惑な客が来たんですよ!」
レミが横から、興奮冷めやらぬといった様子で言った。その声からは、少々の怒りも見受けられる。
「窓は開けるわ、棚は倒すわで……」
「そんな客が?」
「態度は偉そうだし、まったくもって不愉快です!」
あの仮面を剥いでやりたい、などと苛々しているレミ。
ライアーは、そんなに気取っているやつとはどんな客だったのだろうか、と想像を巡らせた。そして、それを言うなら“仮面”ではなく“化けの皮”ではないかと頭の隅で思う。
だが、怒りに震えるレミは、少し……いや、かなり近寄りたくない存在であった。
それは大変だったな、とライアーは若干心の篭っていない労いをかけると、
「これでも食べて落ち着け」
持っていた紙袋を、レミへ見せるように掲げた。
「なんですか?」
「クランペットだ。甘いぞ」
「わあ! ボク、クランペット大好きです!」
会話を見守っていたルークが、いい具合に乗ってきた。ライアーは小声で「ありがたい」とつぶやく。
ライアーは、部屋の主へ休憩を提案した。その彼も微笑み、賛同する。
「それじゃあレイトン、茶器を借りるぞ」
ライアーは断りを入れると、お茶を淹れるために、一度部屋の外へ出ていった。
それを確認して、レイトンは二人に指示を飛ばす。
「さあ、後少しだ」
「本当、デスコールには迷惑します」
「あの機械、なんだったんでしょう?」
怒れる二人は口々に言い合ったが、紅茶の良い香りがしてくるころには機嫌を直し。
のちのティータイムには、ここへ突入してきた仮面の科学者の話題は、まったく出なかったということだ。
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エンカウント率:RPGなどで敵と遭遇する確立のこと
書いといてなんなんですが、デスコールは大学には来ない(オンオフ切替する)イメージ。
ですが、こういうオールキャラわいわいな話は大好きです。
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