【再会】
-Again.-






「あれ、キノさん?」

呼びかけられてキノが振り向くと、見覚えのある少女がいた。

黒いジャケットにブーツ。腰をベルトで絞め、ハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)のホルスターを吊っている。
年は、おそらく十代半ばごろ。長めの髪を、後ろでひとつにくくっていた。

「あなたは……」
「レイです。覚えていませんか?」

少女が言う。
いくつか前の国で会った、モトラド乗りの旅人だった。

「またお会いできて嬉しいです」

レイと名乗った少女は頬をほころばせた。
キノも、おひさしぶりですね、と応える。

「私、キノさんに謝りたいことがあったんです」
「“謝りたいこと”?」

レイが、言いにくそうに小声で言う。

キノは出会った当初を思い浮かべたが、特に失礼なことをされた覚えはなかった。
交わした会話も、道や国など無難なものばかりだったはずだ。

「すみません、心当たりがないのですが……。謝りたいこととは?」

キノが聞くと、レイは目を泳がせた。
照れ笑いを浮かべ、あー、と声をもらす。

「セシルも一緒だと嬉しいんですけど……。キノさん、時間ありますか?」


そうして、キノとレイは二度目のお茶をすることに決めたのだった。


***


キノとレイは、座る場所を求めて公園へやってきた。
決して広いわけではない花壇の中で、白やピンク、黄色の小ぶりな花が、その存在を主張している。
時おりやわらかい風が吹いて、花と二人の髪をゆらす。

屋台で、この国の特産である果実を搾ったジュースを買い、二人は辺りを見渡した。
キノがベンチを見つけ、指差す。レイがうなづき、相棒のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)を押していった。


コの字型に並べられたベンチのまわりに壁はなく、開放的だった。
四本の木柱が屋根を支え、そこから影が伸びている。
地面は整備され、モトラドを安定して立たせることができた。

キノとレイは、それぞれベンチの端にモトラドを止めると、その隣へ腰かけた。
向かい合う形になる。

「えーと、何から話そうかな……」

レイが考える仕草をすると、

「ていうか、また会うとは思わなかったよ」

エルメスが先に口を開いた。

「レイ、弱っちそうだし」

あっからかんと言い放つエルメスのタンクを、キノが叩く。

「エルメス」
「いいよキノ。だいたいの奴はそう思うと思うよ」

線の細い男性のような、ハスキーヴォイスの女性のような、高くも低くもない声がエルメスを擁護した。
レイの相棒のモトラド、セシルだった。

レイは気にせず、この間も言われたしね、と笑った。

「キノさん、私ちょっと前に、ある旅の方とお話ししたんです」

唐突すぎる話題にキノが黙っていると、

「陸くんっていう、おっきなワンちゃんの飼い主さんなんですけど……」
「陸君?」
「ひょっとして、ニヤニヤした顔の白い犬?」

キノとエルメスが、順番に聞いた。

「そうです。シズさんっていう男性で、バギーに乗っている人」

レイが肯定する。
そして、「お会いしたことありますよね?」と、確認するように尋ねた。

「ええ。覚えています」
「あの時のスケベ犬じゃん。レイも会ったの?」

レイは「スケベ犬?」と口にしてから、

「そこで聞いたんですけど、キノさんって女性の方だったんですね……」

しみじみと言った。

「え?」
「私、てっきり男の子だと思っていて」
「…………」

キノが、なんとも言えない複雑そうな顔をした。

「レイまでキノを男だと思ってたの?」
「うん」
「こりゃケッサクだねキノ」

複雑な顔のまま、キノはエルメスのタンクを叩く。

「イテ」

そして、レイへと顔を向けた。

「それが“謝りたいこと”ですか?」
「そうです。謝らなきゃって思って……」

レイは眉を八の字にして、ぺこりと頭をさげた。

「ごめんなさい」

一方のセシルはエルメスと小声で、
「よく間違えられるの?」「たまにね」
と失礼な会話を続けていた。

複雑な顔から一度息をついたキノは、大丈夫です、と答え、

「でも、初対面の男性を自らお茶に誘うのは、あまりよくありませんよ」

やんわりと注意をした。
顔をあげたレイは、目を一度ぱちくりと瞬く。そして、

「あはっ」

軽く吹きだした。

「それ、シズさんにも言われました」

レイが、くすくすとおかしそうに口元に手を寄せる。
セシルがあきれた様子で、感謝しなよね、と言った。

「これが悪漢だったら、レイは今ごろ売り飛ばされてるよ」
「うん、気をつけるよ、セシル」
「笑いながら言われてもねえ」

セシルがため息をつくように言った。
レイは目を細め、嬉しそうに微笑む。

「失礼なことを言ってしまったのに、ありがとう。私、キノさんに出会えてよかったです」



***




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