【ある朝のはなし】
-I Can't Stop My Love For You.-






再び目が覚めた時、辺りはまだ薄暗かった。
だがもう少しで夜が明けることがわかっていたので、キノは起き上がって目が慣れるのを待った。

目が慣れると、最初に視界に飛び込んで来たのはベッドの向こうのエルメスだった。
ゆっくりと首を回す。エルメスの隣のセシルの姿が目に入り、そしてレイの姿が見えた。
こちら側に顔を向け、小さく丸くなっている。

レイはいつも丸くなっているな、とキノは思った。

ベッドから出て、レイの方へ歩み寄る。毛布を直し、起こさないよう、そっと隣に腰掛けた。
夜明けが来ればレイを起こすことになっている。

レイと一緒に旅をするようになってから、レイを起こすのはキノの役目になっていた。
元を辿ると、それはセシルの役目だった。
セシルは早起きで寝起きも良く、キノが起きている頃には既に起きていることも多々あった。
それが、いつの間にかエルメスよりも遅くなっていたのだ。

案外、セシルもギリギリまで寝ていたいタイプなのかもしれない、とキノは考えた。キノという目覚ましが出来たから、お役目放免というわけだ。

「………」

それとも、とキノは思う。

(こうなることをわかっていた、とか)


キノは、レイの髪に触れた。
なめらかでさわり心地のよい、普段はむすばれている長い髪。今は広がって、シーツの上に散っていた。
さらに頬にも触れてみる。やわらかい感触と、ほんのりとあたたかい体温が伝わってきた。

(レイは女の子なんだ)

そして、自分も。



もしかしたら、この気持ちは恋ではないかもしれない。そんなことを知る前に、自分はあの国を出てきてしまったのだから。
だが、他の言葉で表すには惹かれすぎているような気がした。


近づきたい。
その心の奥底に触れたい。
そうして、こっちを向いてほしい。

友情よりも強くて、愛情のように綺麗じゃなく。
一方的でありながらも、どこか見返りを求めている。


とめどなく溢れてくるこの気持ちこそ、恋に違いないのだろうと。
それは、性別など関係なく起こるのだろうと。

「ごめん」

閉じられた瞼を見ながら、キノは息をこぼした。
形の良い眉を寄せ、苦しそうに、口を引き結び。

「……ごめん」

伸ばした指先が震えた。




***



「レイ」

強く言って、キノはレイの肩を揺さぶった。
日が昇り、室内は明るくなっていた。朝だ。

「うぁ……キノ……? おはよう……」

まだ目が覚めていないのか、レイがふにゃふにゃとした声で答えた。
なんだか可笑しくなってキノは、あはは、と声を立てて笑う。

(今日もレイと旅ができる)

旅はいつか終わる。
だが、今日もレイと過ごせることは変わらない事実だ。

彼女と自分の心が違っているとしても。自分は、まだレイの傍にいられる。


わかってはいるけれど、と頭の片隅で思いながら、それでもキノは想った。




(この時間が、ずっと永く続けばいいのに。)




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Love Is Not Enough.(愛だけじゃ、足りないんだ)
一人だけ友情から抜け出して、ごめんね。




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