【コロシアム】
森と川の境目の道を二台のモトラドが走っている。
道の土は硬く、平坦にならされていて通りやすかった。
幅も広く、普段から往来が激しいのかと予測できるが、今現在は二台しか走っていない。
「いい道だね!だけどスピードの出しすぎだ!」
「何言ってるんだ!エルメス、お前急に老けたのかい?」
エルメスと呼ばれたモトラドの叫び声に運転手も叫び返す。
その隣を走っていたもう一人の運転手が宥めるように言った。
「エルメスくんの言う通りだと思うよ。あまりスピードを出して進むのは良くないね」
「そうよ、リズルゥの言う通り」
リズルゥと呼ばれた運転手はアクセルを緩めるよう促すが、運転手はまったく聞き耳を持たなかった。
ギアはトップに入ったまま、エルメスが出すエンジン音は壊れているのかと思うほど激しい。
エルメスの後部座席に積まれた荷物が、猛スピードの中でがたがた揺れていた。
「あ、」
「ぎゃあ!」
道がほんの少し盛り上がっているところにエルメスがスピードを維持したまま、運転手によって突っ込まれる。
リズルゥが小さく声を出した後、鉄の塊が浮いて数メートル空中を進み、耳を塞ぎたくなる悲痛な音を立てて着地した。
同時にエルメスも悲鳴を上げる。
そこでやっと運転手はアクセルを緩めた。
「いやあ、エルメス。大丈夫かい?」
「『大丈夫かい?』じゃないよ、キノ!フレームが折れたと思った!」
「でも見事な浮遊だったね。空を飛べそうだったよ」
「もう一回やったら空が飛べるかもしれない」
「メリッサ!この二人を止めてよ!ボクこのままじゃスプラッタになっちゃうよ!」
「嫌よ、あたし巻き込まれるのは、イ・ヤ」
リズルゥとキノと呼ばれた運転手の危険な発言に、エルメスはメリッサと呼んだモトラドに助けを求めた。
だが、メリッサの方は冷たく返し、そっぽを向いている。
「まぁでもたまには最高のスピードを出してみたいと思うだろう、誰でもね」
「じゃあリズルゥもメリッサにやってみてよ」
「……明日走れなくされそうだからやめておくよ」
エルメスの言葉にリズルゥは手を上げて苦笑した。
メリッサも当然、と返す。
「リズルゥ、着いたよ。あれが次の国だ」
「へぇ……」
キノが左手で指差した先には、なだらかな下り坂とその先にある城壁があった。
そこは浅い盆地になっていて、濃紺の森の中にグレーの壁がぐるりと町を取り囲んでいる。
中には建物が乱立し、中央には巨大な楕円が見えた。
「前から一度訪れてみたかった……」
「その前にエルメスくんを休ませて上げないと、罰が当たりそうだね」
「もちろん」
うっとりとした表情のキノを残し、一人と二台は足を進めた。
「ちょっとキノ。ボク、キノがいないと進めないから」
「分かったよ、エルメス」
名残惜しげにキノはエルメスに飛び乗り、エンジン音を響かせ発進した。
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