【天気予報の無い国】


降り注ぐ雨の中、二人の旅人と二台のモトラド(注:空を飛ばない二輪車だけを指す)が整備されていない道を走っていた。
青いモトラドに乗った方は運転が怪しく、前を行く旅人がしきりに後ろを振り返っている。
次第に離されていく距離に、漸く青いモトラドが口を開いた。


「ちょっとリズルゥ!あんた危ない運転してんじゃないわよ!」


モトラドの激しい声にも朦朧とした頭では、身体が言う事を聞かず、リズルゥと呼ばれた旅人は黙ったままだった。
深く被っていた帽子を少し上げ、ずれたゴーグルを直し、リズルゥは漸く答えを返す。


「仕方ないだろう、メリッサ。身体が言う事を訊いてくれないんだ」

「あんたねぇ……!旅人になったんだから自己防衛くらい」

「ああ、駄目、かもしれないね」

「ちょっとぉぉ!」


べしゃ、と音を立てメリッサの身体が傾き倒れた。
乗っていたリズルゥは投げ出され、泥水の中に顔を突っ込んでしまう。


「ちょっとキノ!リズルゥ倒れちゃったよ!」

「え……前途多難だね」

「冷静に分析してないで助けたら?」

「分かってるよ、エルメス」


キノと呼ばれた前を走る旅人がエルメスと呼ばれたモトラドを止める。
溜息を一つつき、リズルゥの身体を起こした。


「リズルゥ。大丈夫かい?」

「少々、参ったね……キノくんが二人見えるよ」

「こりゃ重症じゃん」


リズルゥの言葉にエルメスがすかさずツッコむ。
焦点の定まらない深紅が宙を彷徨っているのを見て、キノは大きく息を吐いた。


「次の国、一個前にしよう」

「天気予報の無い国、だっけ?いいの?」

「リズルゥがこの調子じゃあ意味ないよ」

「すまない、キノくん。…ああメリッサも二人見えるよ」

「あんた少し黙ってなさい」


リズルゥのボケボケした言葉に一同は深く溜息をついた。

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