【名も知らぬ男の話】
荒野の整備されていない道を、一人の旅人とモトラド(注:空を飛ばない二輪車だけを指す)が走っていた。
舞う砂埃が目に入らないように両目をゴーグルで覆い、砂に塗れたマフラーで口を覆っている。
「ねぇキノ。次は何処へ行くんだっけ?」
モトラドの質問に、キノと呼ばれた旅人は小さく答えた。
「光を失った国、だよ。忘れたのエルメス?」
キノの呆れたような声に、エルメスと呼ばれたモトラドは不機嫌な声で答えた。
「言われてないよ、キノ」
「そうだっけ?まぁいいんじゃない?着いたし」
キノがハンドルを緩めてブレーキをかける。
目の前には荘厳な装飾が施された門があった。
光を失った国。
そこについて妙な噂を聞いた為、キノは行く事を決心した。
妙な噂とは、盲目で凄腕なハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)使いがいるという事。
「いい部屋があるといいなぁ…」
「あと食事でしょ」
キノの言葉にエルメスは呆れた口調で答えた。
その言葉にキノが無言でエルメスを蹴ると、何するのさ!と抗議の声が返ってくる。
だが、キノはその声にまた、無言で返した。
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