Golden slumbers with you.[1/2]


がちゃり。
そんな音がした気がして廊下を見ると、三浦くんが立っていた。

「え、三浦くん?」
「あれ、いたの?」
「いたよ」

手元にあったリモコンを使い、テレビを消す。繰り返しのニュースに飽きて引っ張り出した、有名な映画のDVD。この家の住人のものだ。

いわゆる又貸し状態と呼ばれるこの部屋へ来たのは、世間が慌ただしくて仕事にならなかったからである。


一定期間で家を持つ三浦くんと違って、私は同時に部屋を複数使い分けている。
今回は偶然、この部屋が仕事場から一番近かった。だから来た。それだけだ。

部屋の場所は全て教えてある。自由に使っていいと言ったのも自分だ。
だが、いつもは事前または事後に何かしらの連絡があるはずで、こうして直接ブッキングするのは珍しい現象だった。


「コーヒーでいいよね?」

言いながら台所に向かい、やかんに水を入れる。
コンロに置いて火をつけると、やかんはかたかたと鳴った。

「……三浦くん?」

いつも三浦くんは「ミルク入れて」だの「熱いのやだ」だの、色々と注文を付けてくる。なのに、今日はそれが無かった。
違和感を感じ、呼びかけてみるが、返事はない。


疑問に思って部屋を見ると、三浦くんはカラーボックスの中の籠をしきりに探っていた。

「……何してるの?」
「エロ本ないかと思って」
「あるわけないでしょが」

その中には仕事道具しか入っていないことは百も承知のはずだ。
なぜなら、彼こそがそのバスケットの持ち主だからだ。

「今持って行っても無理だよ。外、大変なことになってるもん」
「知ってるよー」

返す時に面倒だから置いていくなと言っても、彼はよく道具を忘れていった。
来るたびに置いていくものだから、いっそここを巣穴にしようとしているんじゃないかと疑ったほどだ。

「やっと持って帰る気になったの?」

ため息混じりで皮肉を言ってみても、三浦くんにダメージは無かった。
少ししてお湯が沸いて、マグカップにコーヒーを注いで持ってきても、変わらず道具を見比べたまま。

その顔はにやついていて、容姿も相まって、なんだかイタズラを思いついた子供のようにも見える。

「三度目の正直ってやつだよ」
「はあ」

話が見えず、曖昧に返事を返す。
テーブルにカップを置くと、そのままソファに座った。自分のカップに口をつける。

「よくわかんないけど、まあ、がんばってらっしゃいな。『二度あることは三度ある』って言葉もあるんだよ、切り裂き魔さん」
「ヘマして、俺に切られそうになった空き巣泥棒に言われると、なんか、説得力あるね」

三浦くんはそう言って笑って、振り向いた。

「今日はこの家に泊まるの?」
「うん。三浦くんは? いつもの所じゃないんだね」
「ちょっと先客がいてね、」
「先客?」

どういうことだろうと考えていると、道具を選び終わったのか、三浦くんはカップをずらして向かいに座った。
カーペットに座ったまま、少し猫背でコーヒーをすする。


「何年か前の、でかいヘッドホンの。覚えてる?」
「え? あ、ショットガンの男?」
「そうそう」

三浦くんがキルオと呼ばれて巷を騒がせていたころ会ったという、ショットガンを撃つ大男。
その話は、私もよく覚えていた。しばらくは夜道を歩きたくないと思ったものだ。

「あいつ、見付けたんだよね」
「え」

まさか、三度目のってそういうことか。いや、でも、この場合やられたのは一度だからリベンジじゃないか?

私が驚いて声も出せずにいると、三浦くんはにやにやしながら聞いてきた。

「びっくりした?」
「びっくりしたよ」
「俺もだよ。だから、やっつけてくる」

やっつける、とはまた、正義の味方のような台詞だな、と頭の片隅で思った。人殺しが正義の味方とは、なんだか笑える。

「Mr.ショットガンvsキルオ、か……」
「対決だよ」
「うん、面白いね」
「でしょー?」

素直に感想を漏らすと、三浦くんは最上級の笑みを見せて言った。

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