ばしゃばしゃとたくさんの水を含んだ泥を思い切り走りながら
踏みつければ勢いよくズボンに泥が付く。
いつもだったら汚ねえな!とか笑いながらそのまま歩くのだが
今はそんなことも気にしてられなかった。

「兄さんどこいったー?」

とてもやる気のない声。妹だ、妹の洸が追ってきてるんだ。
んふふと楽しそうに持っているであろう暗器をクルクルと回す。
どうしてこうなったのだろうか、と少し前の洸との戦いで失った片目にかかる
眼帯を触る。

「兄さんみっけ」
「ちっ」

満面な笑み(といっても可愛げのあるもんじゃない)をひろげて
洸は武器を構えてスタートダッシュをきった。
俺はといえば武器を構えることをせずにただ逃げる。

「ちょっ逃げないでよー」
「逃げるに決まってんだろ!!」

妹だから手を出せないといったらきっと甘いと言われるだろう。
だが、妹だからこそ目を覚まさせたいという気持ちもあった。
靴のなかはぐしょぐしょで走りにくく、足が重い。

「うげっ」

そんななか不意に足元に違和感を感じる、とその同時に転倒。
誰だこんなところに雑誌を置いておくなんて。

「兄さんってドジっこだっけ?」
「んなわけねえだろ」

だよねーと笑いながら妹はすでに俺に馬乗りになっていた。

「まじで?」
「まじで。兄さんさよなら」

あー俺死んだな、と思いながら目を瞑る。
我ながらに女々しい奴だ。
走馬灯なんてものはないけどどうせなら少し前にもどって
兄貴逮捕してから死にたかったなあ、と今世の後悔を心の中で語ってみた。
意外と余裕あるじゃねえか俺。



「ガッ!?」
「黎実クンいつのまにそんな女々しくなったんだァ?」

覚悟していった痛みはなく、逆に聞こえた妹の小さな悲鳴と聞き覚えのある声。
そっと目を開ければそこには一年前に和解したがいつか捕まえよう、そう
決めていた兄の姿だった。

兄はニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべながら俺の見る。
別に女々しくないと声を荒げていってみれば
オー怖いよーお兄ちゃんないちゃいそう、とおどけて見せた。

そして妹がゆっくりと蹴られたらしい腹を押さえながら立ち上がると
目つきを変えてどうする?と俺に聞いてきたのであった。

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