思考がもうぐちゃぐちゃになって。何も考えられなくて。ただ一つのことだけに集中していた。
「エース、どこに行くんだよ」
伸ばしても伸ばしても届かない兄の背中がぼやけて見えて。それでも泣きそうになるのを我慢する。泣いているところなんてみっともないところを見られたら、まったく仕方ねえ弟だと言って笑うだろう。でも、甘やかされたくない。もうエースに頼らなくても生きていけるんだ。そう示したいのに、まだまだ弱いままだ。ただひたすらに兄の名前を呼ぶ自分がとても弱く見えた。
「おれは、弱いままだ、」
「エース、ごめん、エース助けられなくて、」
「仲間も助けられなかった。ほんとにバカだ」
押しつぶされそうな不安が苦しくて、息も呼吸困難になるほどに。自分で自分を絞め殺す行為は止まらない。解放するすべも見つからないまま、迷子になってしまった子のようにすがる相手もいなかった。そばに誰もいなかった。それだけのことでルフィは悲しくて死んでしまうではないかとくらいに一人ぼっちだった。
「おい、お前はそこで終わる男かよ」
少し光が差した時だ。姿は見えなくとも、確かにはっきりと彼の声が聞こえた。聞き間違いだとしても、その声はゾロのものであることだとすぐに分かった。間違えるはずがない。どこからか湧いてくる自信に疑問を抱かなかった。
「お前何してんだ」
やはり、聞き間違いではなかった。何故、ここにいないゾロの声が聞こえるのは不思議であったが、少し心が落ち着いてくる。
「おれは、たくさんの後悔をしてるんだ。エースを助けられなかった。みんなも助けられなかった・・・」
「ふうん。で?」
「で、って」
「だったら、その壁を乗り越えてみろ。お前は限界を決めるような男ではなかったはずだ」
「ゾロ・・・」
思えば、ゾロはおれをいろいろと助けてくれたんだ。どんな時でも背中にゾロがいて、こんなに頼もしいことはない。
「後・・・みんなはお前のことを心配してるからな。お前のことだから、海でも飛び込んでおれ達を探しに来るんじゃねえかって」
「あ、もう飛び込んだぞししし」
姿が見えないのに、ゾロの呆れている顔が自然と思い浮かんでくる。まるで目の前にゾロがいるみたいだ。
一つの光がどんどん広げていく。ルフィはここが夢だととうに気づいていた。悪夢がやっと終わりを告げるのだ。
「何だ、もうやったのか。まったくこれだから船長は。おれがしっかりしないと駄目だな」
「ああ。ゾロ、ありがとな!本当に助かった!」
太陽のように笑うと、目覚める同時に後ろから頭を撫でられ、
「ルフィ、海賊王になれよ!兄ちゃんは待ってるからな!」
ニカッと笑う兄が見えて、
「エース!!」
大きく叫ぶと、現実と対峙した。たくさんの緑が生い茂っているジャングルの中におれは自分の手を見た。おぞましい感覚は残っているものの、前と比べると恐れなくなった。
まだまだ夢は達成していない。夢を叶えるのは簡単じゃない。当たり前のことだ。ここであきらめたら駄目なんだ。背中を押してくれた二人を思い、
「ありがとな!!!」
たった一つの言葉なのに、深くまっすぐに伝わってくる感謝してもしきれない思いは天に届く。
∴息継ぎが下手な魚と酸素ポンプ
title/にやり