重なった心臓に串刺し

それはティッシュの固まったものだった。今までになかったものがローのベッドのそばから発見した。ゴミ箱に捨てるとティッシュの塊がたくさんあった。これはときどきある。
つまり、誰かとローは夜の営みをやっていたのだ。最初に発見したときは大して気にしなかった。だけど、今思えば、発見したときはよく騒がなかったなあと思う。
ルフィはチョッパーに劣るが、鼻がとても利く。だから、毎回ここに来るときは違う匂いするのだ。薬の匂いだったり、生臭い匂いだったり、女の香水の匂いだったり、さまざまな匂いがローの部屋をよく塗り替えていく。
ローは清潔好きなので、いつもファブ○ーズで消臭しているが、ルフィの鼻にはごまかせなかったようだ。これがどんな意味を表しているのか。ルフィはそこまで馬鹿じゃない。所詮は他人なのだと思い知らされる。どこまで行っても、隣人のままである。

「夜、患者さんを見てるんだっけ?」
「そうだな」
「そういや、見るときはそれを外すのか?」

それとはもちろんローの被っているものだった。

「当たり前だろう。治療するときはちゃんと外している」
「だよな」
「・・・気にならないのか?」

ローの素顔をみたことがないルフィは好奇心で気になっているはずだった。だけど、事情は少しずつ変わっていた。

「んー。前は気になっていたけど、今はどうでもいいや。むしろ、被ったままがいい!」

頑なずっと被っていろとも言う。その目に少し焦りが見えていた。きゅっと結ぶ口。明らかに挙動不審になっている彼に違和感を覚える。

「・・・・・・・・お前、何か隠していないか?」
「え?か、隠していねえ!」

嘘をつくことが出来ない、素直なルフィはとっさに退く。

「いや、左腕を出せ」
「え、・・・いやだ」ルフィは別のことを想定して拒否していたのか、少し拍子抜けをしたのをローは見逃さなかった。だが、そんなことより気になることがあった。

「いいから出せ」

とついつい命令口調になってしまう。怖がらせてしまったかとヒヤヒヤするが、その心配は必要なかった。

「しー!近所迷惑になるだろ!」
「お前もうちょっと静かにしろ」
「えっ。おれが?そんなことねーよ!」
「いやだから、麦わら屋少し落ち着け。おれに見せてくれないか。その怪我」
「……………」

しぶしぶと差し出す左腕のシャツを捲ると、そこに血ににじんだ包帯が巻かれていた。包帯を解くと、ぱっくりと切られた皮膚が現れた。よくここまで我慢できたもんだと感心している場合じゃない。ルフィは歯を食いしばるだけでたいして痛くないと強がっていた。と思っていた。
ルフィは並外れた体力、回復の故に激しい痛みに襲われても、ちくっとする痛みの程度で済んでいた。だが、それは危ない状態だと示していた。あまりにも激しい痛みがルフィの神経を鈍らせて、痛みを感じにくかったのだ。
ローは予想が外れてほしいと願っていたが、代わりにため息を吐いた。

「怪我してるんじゃねえか。適当に処置したな。このままだと病原菌が入って膿が出来るだけだろ。誰にされた?」
「………………」
「黙っていると分かるもんは分からねえ。それ、切られたんだろ」
「………………」

数分、沈黙に陥る。
啖呵をきったのはもう我慢できないローだった。

「・・・・・言えないようなことか?」
「……………………ああ」

重く重く二文字の言葉で拒絶される。
所詮、隣人は隣人。隣人の事情を深く聞くなんて野暮だ。これをきっかけに二人の見えなかった溝がはっきりと浮いてしまった。

ローは深い詮索はしないと、線を引いた。そして、

「・・・・・・・脱げ」
「はあ!?何言ってんだ!?」
「これから縫合開始する。その傷は八縫いしないと危ない大きな傷だ。中も深く切られてるな」
「そんなの……大したことねえよ」

一つ一つの言葉が深刻な事態だと知らされる。だけど、ルフィは頑な拒む。まるでその傷が自分への報いだと言いたいようだった。
だけど、そんなことはローには関係ない。ローは静かに低い声で言う。

「・・・・・誰かに切られたのかは後で聞いてやる。おれは腐っても医者だ」

そう言って、自分の被っていたクマの被り物を外しにかかった。ルフィは息をのんだ瞬間、ローとルフィの初めての本当のご対面となった。

「・・・初めて、だな。改めて言おう。隣に引っ越してきたトラファルガー・ローだ」











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