スタートライン

ぴんぽん。
ぴんぽん。
ぴんぽんぱんぴんぽーんぽん。

「トラ男!遊びにきーたーぞー!!」

やかましくインターホンを押しながら、子供のようにそわそわとドアの前で立つ。ガチャリと開けた音がすると、やっぱりクマの被り物を被っているローがいた。いつ外す時間があるんだろうかと気になってしかたない。そして、ローが無言のまま立っているものだから、しんと静まりかえる。
その静けさを破る声がくる。

「しししっ。遊びに来た!」
「・・・・・ああ、ちぃっと待ってろ。今、片付ける」
「大丈夫だよ。おれも部屋が散らかっているようなもんだし」
「・・・上がりな」

ローの部屋に入るとほお、と感嘆を上げる。バギーがいたときは女のフィギュアがたくさん並ばれていた。ルフィがふざけてそのフィギュアを壊すのがお約束だった。バギーがよく血涙を流しながら、起こっていたのは昨日のことように鮮明に覚えている。
しかし、ルフィの予想していたものとは一転した。
とてもシンプルな構造をしていた。ただ、机の上がとてもごちゃごちゃとしていて、周りはゴミだらけだった。それ以外はとても綺麗だった。テーブル辺りに座ると意外と綺麗だな!と褒める。返事がなくて、クマの被り物が揺れた。
それにしても、病院みたいな匂いがするんだなあとつんと鼻がくる。アルコール臭がすることの異変に気付かないルフィは持っているタッパをローに差し出す。
「昨日の肉じゃがうまかった。ありがとな!」と満点の笑みでどれだけおいしかったのかと語られている。とてもいい笑顔に何を思ったのか、ローは無言でタッパを受け取る。

「そーいや、何で変なものを被っているんだ?」

最初から可笑しいことをやっと言ったルフィにローはやっとかと言わんばかりにクマがとてもうなずいているように見えた。気遣いでルフィにお茶とクッキーを出した。

「ありがとな!」
「・・・・・」

お茶をすすりながら、ローの様子をうかがうと部屋の中でもそれを外さないのか不思議だった。暑くないのかな、それは。
もしかして、おもしろい顔をしていたり、本当にクマの顔だったらといろいろな妄想をふくらませる。

「・・・・ファッションだ」
「へー、それファッションなんだ。お前、おもしろい奴だな」

もっと気にしろよ!!ウソップがいたなら言うであろう。
清潔な空間にクマの被り物を被った男がいる時点でとてもシュールだ。だけど、子供のように笑う男は器が海のように広く、深くは詮索しなかった。あまり広すぎるといろいろと問題を起こしてしまう。それがルフィの人間性だった。
だが、ローからすれば大変助かっていた。だから、誘うことが出来た。どうして誘ったのか。その真偽はローでも確かめるすべはない。ローは何となく気まぐれでルフィを誘ってみただけなのだ。

「おもしろい・・・?どこがだ」
「んー全部?てか、そのクマを被ってる時点で笑える!」
「・・・・そうか」

クッキーをカリカリと食べていると、甘みが広がるなかでおもしろいことを思いつく。食べるときはどうやって食べるんだ!?と単刀直入に言う。確かにその被り物を被ったままでは食べつらい。
無言を貫き通そうとしたが、子供の純粋そうな目を向けられちゃ、言わざる得なくなってしまう。言葉を振り絞った結果、

「・・・内緒だ」
「えー、もったいぶって」

本当にどうやって食べるんだろう。

「中学生か・・・?」
「いや、高一だぞ」
「・・・意外だな・・・」

態度が幼く感じたせいか、もっと若いようだと思っていた。しかし、ローの予想は外れとなる。むっとふくれるルフィは身長を多少気にしていたらしく、「トラ男はやっぱりたけえな」と褒める。

「・・・普通だと思う」
「ふーん。おれも早く伸びてーなぁ。たくさん飯食ってるのに。あ、後で飯を買いに行かないと」
「・・・・・・か?」

ローが何を言ったのか聞き逃したルフィはん?と首を傾げる。

「食っていくか?おれの作った飯」
「えー?でも、おれめちゃ食うぞ?」
「かまわない・・・いつもより多く作ればいい・・・もっと食べたいんなら、家から米を持ってくればいい。炊いているだろう」
「しししっ。本当にありがとな!バギーと違って、いい奴だな!」
「・・・・・」

そのとき、何故か動かないはずのクマの顔が困っているようにと見えた。一瞬だったかもしれない。

「あ、隣人同士よろしくな!」
「・・・ああ、よろしく」

これが隣人同士の新しい何かが始まるスタートラインの合図だった。





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