トウヤとレシラム


※N主♂なのはデフォルメ。






木から木の実をたくさんもぎとる。
オレンの実は素晴らしいと思う。誰でも手軽に食べられて、誰でもハッピーになれるのだ。僕はそのオレンの実が好きだ。心が幸せになれるなら、なんだっていい。がつがつと剥いたオレンの実を食べる。

「……………」

少し気になることがあったので、モンスターボールを取り出し、あるポケモンを呼び出す。

「レシラム」

神々しく、真白い衣でもまとっているかのような龍が現れる。神様だけどね。僕は持っているオレンの実をじっと見つめてから、仰いでいるレシラムに差し出した。でも、きっと食べるところが、興味を持ってくれないんだろうなと思った。
僕のレシラムは変にプライドが高いところがあって、低俗な食べ物、低俗なポケモン、低俗に関わるありとあらゆるものに興味を持たなかった。もちろん、人間も、だ。マスターである僕を無視しないでくれるだけでもありたがった。
神様はゆうゆうと空から眺めるだけで良かったんだろう。でも、僕はあの時こうするしかなかったんだ。あの人をどうしたかったのかは分からないけど、救いたかったんだと思う。今でもそう思っている。
レシラムはやはりオレンの実に興味を持ってくれなかった。吹き荒れる草原に座り、空のかなたを見つめ始める。

「レシラム、神様なら、僕の声聞こえるかい?」

話しかけても、答えてくれない。だろうなー、このままだと僕の方が変人だ。それでも僕はどうしてもレシラムと対等に向き合いたかった。本来ならば、出会ってはならない存在を捕まえてしまった僕は罪悪感にいたたまれていた。ねえ、レシラム、怒っていないのかなぁ。僕たちの勝手な都合で巻き込んだあげくにさんざん苦しませて。

「レシラム、自由になりたい?」

独り言のつもりで言ってみたけど、小さな雄叫びが聞こえた。実に神々しい声だった。返事してくれたことはとても嬉しかったが、内容は内容で少し困ってしまう。

「レシラム、行ってもいいんだよ?」

そう言うのも、右手にあるオレンの実を無意識に握って、果汁があふれていく。あ、もったいないことをしてしまった。でも、レシラムはその方が幸せなんだろう。君の幸せのためならなんだっていい。
羽ばたく音が聞こえる。ああ、神様は神様らしく天に向かっておいてよ。これであの人との繋がりが消えてしまうのは残念だけど。
急に大きい雄叫びが僕の鼓膜にビリビリと響いた。破れるかと思うくらいに痛くて、涙目になる。何があったんだと顔をあげるとレシラムが目の前にいた。大きい口をあげて、近づいてくるものでつい食べられる!なんて思ってしまった。だが、レシラムはもちろん人間を食べるなど、低俗なことをせず、僕の隣にあるオレンの実の山をまるまると一飲みした。でも、それもレシラムにとっては低俗なことではなかっただろうか。

『我が主よ、私は怒っています。主の勝手な都合で私を逃がすなど、許せません。私はあなたを認めている上でここにいるのです』
「れ、レシラム!お前!」

いろいろとびっくりして、口から内臓が出そうだ。いや、この場合は咀嚼されたオレンの実か?だけど、レシラムは二度と喋ることはなく、また空のかなたを見つめる。僕はレシラムに一歩近付いた気がして、嬉しくなった。右手にある潰れてしまったオレンの実を一かじりして、口の中に甘みがとても広がって最後にちょっぴり苦みを感じた。



∴あなたに優しい世界でありますように
title/破水





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -