青峰×火神

※無自覚×ノンケ(彼女持ち)



バスケが踊るような音がストリートバスケコート全体に響いていた。二人の姿が目まぐるしいくらいに動いており、素晴らしいプレーを見せていた。
通りすがりのサラリーマンの歩いていた足が止まることも出来るくらいに、激しいぶつかり合いをしていた。

群青の空の月の下に息をするのが苦しいくらいに息が乱れていた火神はベンチに座る。たくさん流した汗のせいで張り付く服がうっとうしくて、服を掴んで体を扇ぐ。
バスケコートの真ん中にぽつんと転がるボールと倒れている褐色の少年
──青峰はぜーぜーととても息が乱れていた。
体が息するように、深呼吸を大きく繰り返す彼の瞳には月が美しく映っていた。
しかし、今の月は美しいという言葉に似合わず、欠けていた。月が新月とか上弦とかそんなのではなく、雲に掛かっていた。
でも、青峰の瞳には美しく思えてしまった。
青峰自身は何故そんなことを思ってしまったのか分からない。


やっと息が落ち着いたところで、火神は水を美味しそうに飲んでいた。喉仏が前後に動いているのがよく分かる。
青峰は火神に近付き、隣に座る。
いる?と気遣いの声を掛けられて、ああと当然かのように強気な声で返す。先ほどまで火神が飲んでいた水が青峰に渡り、水を一気飲みする。

それを飲み干すと、おまっ、それはねーよ。俺もっと飲みたかったのに!と文句の言葉をうるせーの一言でかき消す。


「全くお前は……はあ、また買うか」


ブツブツと文句を言う火神をおいて、青峰はずっと気になっていたことを思う。

最近、火神はケータイを見ていると嬉しそうな笑みを浮かべることも、一緒にバスケをする回数は僅かであるが、前と比べると減っていることも、火神の周りが幸せそうなオーラを見えることも、青峰はずいぶん前から気付いていた。
それでも、ずっと聞かなかった。
何故、前に気付いていたんなら聞かなかったのかは分からない。


今日は、とうとう火神に質問してしまった。ちょっとの後悔と恐怖を無視しながら。


「火神、最近幸せそうな顔してっぞ」

「え?な、何で?」

「んー……何となく?」

「分かるのかよ。お前は……あー隠しても仕方ねえよな」


火神の一つ一つの言葉が青峰の心臓の脈を早まられる。ドッドッと高鳴る心臓の音がうるさいと思いつつ、火神にも聞こえていないかと不安になった。
隣にいる火神は苦笑にも近い笑みで、それでも嬉しそうに見えた。

青峰の中の警報が鳴っていた。
ピーピーとやかましい高い音の中、止まれと。聞くなと。知りたくないと。知ったら、もう戻れないぞと。青峰の中のもう1人の誰かは警告を出していた。
それでも、悲しかな。
青峰の口は止まらなかった。その時、君はもういいんだねと幻聴が聞こえた。


「え、何かあったのか?」

「うん、俺さ、」




「彼女出来たよ」



一瞬の静寂。
青峰は喉を詰まらせ、目を丸くした。それは一瞬なもので、すぐにいつもの態度になる。


「おめでとさん」

「おう、サンキューな」


照れくさそうに笑う彼が青峰との距離は近いと思えても、青峰にとっては火神の存在そのものがとても遠く感じてしまった。

隣にいるのに、急に離れてしまった感が何とも言えなかった。

いつからだ?と聞いたら、1ヶ月前かなと首を傾げる。1ヶ月前と言えば、青峰が火神の違和感を感じていた頃だと気付く。

「その子、可愛いのか?」

「えー?可愛いかどうか言われると悩むなあ…」

「はっ、ノロケてんなぁ」

火神はその時、ライバルの青峰に少し違和感を抱き始める。
笑っているはずなのに、今のお前は全然笑えていないに見える。ぎこちない笑い、そして、自分を自嘲するかのような笑いをしていた。

あおみ、と心配そうに声をかけようとしたら、最後まで言えなくなってしまう。自然で作られた光と人工に作られた光を当てられていた青峰の頬に光るものが流れていた。


「あ、れ?何だよ。これ……」


意味わかんねえと戸惑う彼に掛ける言葉が見つからなかった火神も戸惑ってしまう。

ごめんな、みっともない姿を見せちゃってなー。マジ意味わかんねえんだけど。止まらねえよ。どうすりゃいいんだよといつもと違ってらしくないライバルに火神は何をしていいのか分からかった。
ただ、今の出来ることはそばにいることしか出来なかった。

数分すると、突然、青峰に抱きしめられた。
一瞬抵抗しようと思ったが、抵抗出来なかった。泣き声を聞こえちゃ、抵抗する力すら出てこなくなってしまった。豹変してしまった彼にどう対応したらいいのか混乱していた。
火神の首に青峰はうずめ、抱きしめる力が強くなった。

青峰は青峰なりに数分の間に色々と考えていた。どうして泣いちまったのか?とか、どうして悔しいのか?とか、火神の女に嫉妬してしまっているのか?とか、色んな疑問が青峰の中に溢れていた。
最終的に青峰は気づくことが出来た。
たった一つのたどり着いてはいけない答えにたどり着いてしまったのだ。
しかし、青峰は止まらない。
抱きしめる力を強くすると、

「好きだ」

バスケの好敵手、好敵手以上友人未満の人から言われた言葉が告白だと火神はついて行けなかった。
思考が整理する前に、口に暖かいものを感じた。
それがキスされていると分かったとき、視界が暗転した。


火神のカバンにケータイが振動して鳴っていたにもかかわらず、次の日までケータイを開くことはなかった。





∴はじめましてとさよならとおめでとうが似合う季節がやってきた。
title/告別
無自覚×ノンケ(彼女持ち)からホモは難しいんだろうなとか、青火で実験してみた。別にそんなことなかったよ。ただのホモ。





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