短編 | ナノ
sensitive(1)

『は、はるちゃん………?』

「ちゃん付けはやめろ」

『あ、ごめん……………じゃなくてさ!』

「煩いよ、凪」

『っでも!』

「じっとしててよ」

『っ……』

でもこの状況って絶対おかしいと思うんだけど!

現状を簡単に説明すれば、身体はきゅっと後ろからホールドされていて、浴槽という狭い空間で、高校生二人が水に浸かっている。当たり前だけど身動きのとれない状態で、僕は数分前の自分を恨みたくなった。




そもそも何故こんなことになっているかというと、遙が水浴びをしたいと言い出したのが始まりだった。連日30℃を越える猛暑で、凪もその気持ちは十分に察することが出来た。

『暑いもんね、僕も帰ったらシャワー浴びようっと』

いくらプールの塩素を流すためにシャワーを浴びたからといっても、この暑さでは帰宅途中で汗をかいてしまうのだ。

「今日遅いんだっけ?」

『あ、両親?うん、二人で一緒にディナーだってさ。ほんとラブラブ過ぎて、家に居るときくらいは一人息子の心境も考えて欲しいくらいだよ』

「じゃあ夕飯食べてくか?鯖の味噌煮だけど」

『えっいいの?!』

「あぁ」

『じゃあお言葉に甘えようかな』

そういう会話があって、遙の家にやって来たのだが。

家についたとたん、腕を引かれて、浴室に連行され、何故か二人で一緒に入っているというわけである。


『遙、やっぱ一人ずつのがよくない?その…狭いしさ』

「凪は細いから大丈夫だ」

『で、でもさ』

「一緒なのが嫌なのか?」

『そーじゃないけど!』

でもその意識してしまうというかなんというか。

自分だけ意識しているみたいで恥ずかしくなった凪は身を低くして、ぶくぶくと口から空気を出した。

抱きしめられているということはつまり、肌と肌が触れあっているというわけで、僕はプールで濡れてしまった水着も脱いでしまっているけれど、遙は水着なわけで、なんていうかその……つまり僕は何も身に付けていない状態な訳である。

は、はるちゃんは気付いててしているんだろうか。

水着を着ていても、背中とお腹がくっつくほど密着していれば嫌でもわかってしまう。お腹に回されている腕も、凪の苦手な横腹に触れていて、くすぐったいし、恥ずかしい。

『は、遙……あの、あ、暑くないの?』

「水風呂だろ」

『そうだけど、そーじゃなくて……その』

「凪はあつい?」

『少しあつい、かも』

水風呂がというより、触れあっている肌のほうが。
当然そんなことを言えるはずもなく口を閉じれば、「じゃあ涼しくしてやるよ」と、耳許で遙の声がした。



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