短編 | ナノ
キューピッドってがらじゃない

松岡には好きなやつがいる。
本人に直接聞いたことはないけれど、何となく視線や行動でわかってしまうものだ。そして観察すればするほど、相手の方も満更ではない様子なのだ。

それを間近でみているとこっちとしては……。

『あつい……』

「仕方ねーだろが、んなこと言ったって」

宮沢の文句に意味を勘違いして捉えた松岡が相槌をうつ。突然言われたらまぁ大抵の人はその人の内にある考えを理解していないものだ。こればかりは察しろと言われても、よほど相手を知り尽くしていない限りは無理なことである。

『だってさー』

「外のが気持ちいいだろうが」

『まぁ、部活が屋外でできることに文句はない……んだけどさ』

「けどなんだよ?」

『秋らしくないのがやだ』

宮沢はそう言い捨てて、プールから上がった。

鮫柄水泳部には屋外屋内にそれぞれ水泳部の使用できるプールがあった。毎年10月になると室内に変更になるのだが、今年は水温が25℃を超える日もあって、そういう日は屋外で練習していた。

今はその休憩時間である。

「凛せんぱーい!」

似鳥がぱたぱたとボトルをもって走ってきた。その忠犬ぶりに笑うと、松岡がぎろりと睨みつけてきた。

『……似鳥のここまで松岡を慕う理由がよくわかんないや』

邪険に扱われてもついていく姿が見ていてとても痛々しかったし、ひどい罵倒もたくさんされていた。いくら小さい頃から憧れている存在と尊敬していても、松岡についていくその心がよくわからなかった。

だから多分似鳥は。

「宮沢せんぱい?」

『何でそんなに松岡好きなの?』

「え、えぇ?!」

「はぁ?!な、何いってんだよ、凪!」

『や、何となく。気になってからさ』

プールサイドに座っていた二人は、後ろのフェンスに背を預けていた宮沢を勢いよく振り返った。

「……尊敬してるから…じゃ駄目ですか?」

『大会終わりの松岡見て、それでも尊敬してるんだ?』

「あ、当たり前じゃないですか!僕は宮沢せんぱいの質問の意図がわかりません。何でそんなこと訊くんですか?」

『んー?松岡は俺と付き合ってるから、似鳥にそういう気持ちがあるなら真意を確かめなくちゃなーって』

「ば、馬鹿か凪!何しれっとしゃべってんだよッ」

松岡の頬が紅潮していく。たいして宮沢には変化が特に見られない。似鳥はそんな二人を比べて、口を開いた。

「つ、つ…付き合うって、えっ、凛せんぱいの恋人が宮沢せんぱいってこと……ですか?!!」

『うん』

「おい、凪ッ」

『わー顔真っ赤』

「うっせー!!」

「ほ……ほんと何ですか?……それ」

似鳥の困惑した声に「ちげーよ!信じんじゃねーぞ、アイッ」という松岡の反論が被さる。

『キスもしたよ……ね?リン』

宮沢の言葉に肩を揺らした松岡は「あれは無理やりお前がッ!」とムキになった。その反応に似鳥は傷ついたように眉を寄せた。

「そう……だったんですか。僕は尊敬もしていたけど、それ以上の気持ちもあったんです。でも……見込がないですね、宮沢せんぱいが相手だと」

「アイ……」

「……僕は諦めた方が、いいですよね?」

似鳥が目に涙を浮かべ、宮沢を見た。

『別に、諦める必要はないよ』

「えっ?」

宮沢のあっけらかんとした態度に首を傾げた。

「それはどういう……」

『付き合ってないもん。それより松岡、お前両思いみたいだぞ?』

「ばかか!!何でそれをいっちまうんだよ!」

「はっ?」

似鳥がわけがわからないといった表情で宮沢をみた。宮沢はにやにやと松岡を見るだけで、何も答えない。

「だぁー!」

その微妙な空気に耐えられなくなった松岡が声をあげた。

「コイツとは付き合ってねーんだよッ!!」

ビシッと宮沢を指差して、続けてこう叫んだ。

「俺が好きなのはテメーだ、アイッ!」








『わぁーお!大胆。まだ部活中なのにー』

見つめあって数分、その静寂を破ったのは当人たちではなく、宮沢のやんわりとした声だった。

「宮沢のいう通りだな……そーいう、のはだな…、放課後とかきゅ、休日とかにしろ」

『あ、部長照れてます?』

「て、照れてねぇ。照れる要素がないだろ」

『のわりにどもりまくりですが。あてられちゃいましたか?』

「それこそありえんっ。とにかく今は止めとけ」

部長の言葉に顔を見合わせた二人がそれぞれ返事を返した。その表情は怒られたとは思えないような表情で、宮沢は二人に気づかれないように呟いた。

『あー、あつい、あつい』











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