休日ブラザーズ
静かな部屋の中、聞こえるのは自分の息づかいだけだった。家族はみんな、お盆で親戚の家に行っている。凪は夏風邪をひいていて、幼稚園児の従兄弟にうつすからと、一人家に残ったのだが。
『は、ぁ……、はぁー』
身体はだるくて、腕に力も入らない。身体を起こして、水分を補給したいのに、さっきから何度挑戦しても、少しも浮かなかった。
手だけを伸ばして、頭上の台から体温計を取る。脇下にあてて暫く待てば、ぴぴぴっと高い音がした。その温度をみて、目を見開いた。
『うわ……、39℃って……』
平熱が低い凪からすれば、これは高すぎる温度だった。おでこの冷却シートが熱いのも頷ける。そのうちだんだんと、瞼が重くなり、凪はゆっくり目を閉じた。
『っわ!!』
額に突然、冷たいものが触れて、凪は声をあげた。
「わり、やっぱ冷たかったか」
視界にはいったのはぼんやりとした人の顔だった。いつの間に家に入ったのだろう。というよりは誰?二、三度目を擦り、もう一度その人をみれば、それは数ヶ月ぶりにみた兄の顔だった。
『あれ…………、りん、にぃ?』
ぼんやりとした思考のまま名前をよんだ。その疑問には答えず、凛は髪をかきあげながらいった。
「起きたならちょうどいいや。水分とっとけ」
『おき、あがれない』
「はぁ?……ッチ、しゃーねーなぁ。今起こしてやるから」
そういった凛は凪の背中を支えるようにして、上体を起こした。
『ありがと…』
「別にこんくらい……つか、汗やばいな。1回着替えるか?」
凛からペットボトルを受け取った凪はこくりと頷いた。べたべたするし、寝間着が張りついて寒気がするのも事実だったのだ。
冷やされたスポーツドリンクを3分の1ほど飲んだところで、凪はふと浮かんだ疑問を口にした。
『きょう、かえってこないんじゃ……?』
「あ?あぁ…そのつもりだったんだけどな、江とかババアがお前が心配だからみてやってくれってしつこかったんだよ」
『ぁ……ごめっ、なさい』
心底面倒そうに言った凛に謝ると、「お前が悪い訳じゃねぇだろ」と言われた。
「寮自体が休みになるし、どっちにしろ寮にはいられなかったから、別に気にしてねぇ。それよりお前は何でこんなに体調わりぃのに、母親にいってねぇんだよ」
『朝は…こんなに、なかった…し』
「もっと家族に頼れよ。まだ小学生じゃん、凪は。気を使いすぎだ」
シャツを脱がし、背中をふいてくれている凛の表情は見えないけれど、きっと心配そう顔をしているのかもしれない。
物心ついたときには、凛は留学していた。そのため凪はあまり凛のことを知らなかった。そのため最初は恐くて江の影に隠れていた。けれど時折優しい表情をしているのを見てからは、徐々に話せるようになった。
『あの……凛にぃ』
「なんだ?」
『風邪治ったら、一緒にプールいきたいな。僕…、バタフライ……やってみたい』
凪が呟くようにいうと、凛の手が止まった。そのあと暫くしてため息がきこえる。
「……お前すぐ体調崩すじゃん」
『季節の変わり目だけだもん!いーでしょ、凛にぃ』
「ったく、じゃあ早くなおせよ」
『うん!』
凪は赤い頬を緩ませ笑い、それをみた凛もつられるようにして笑みを浮かべた。
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ちなみに凪と凛は7つ年が離れています。
凛は高校2年で2月生まれの16歳なので、
凪は小学4年生で、9か10歳くらいの設定です。
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