短編 | ナノ
置いてかないで

『正臣先輩が自主退学するって本当ですか?』


正臣の担任から、連絡を受け彼に電話した翌日。正臣のもとへよく遊びにきていた後輩の凪にあった。会ったというより、正確には向こうから会いに来たのが正しいのだが。
そんなことよりも、凪の様子の方が心配だった。赤く目を腫らして、泣いたのが一目瞭然。今もまだむせび泣いていて、杏里が凪の背中をさすっていた。


『連絡もつかなくて……ぐすっ、でも…帝人先輩や園原先輩なら…って』


「ごめんね、凪君。でも正臣はきっと帰ってくるから」


「だから待っててあげようよ」そういうと不安げに帝人を見た凪。彼の目を見てにっこりと笑いかける。


『そう、ですね』

すると凪がぎこちなく笑みを浮かべた。そのまま、帝人と杏里にお礼をいって去っていった背中を見送って、帝人は独り言のように呟いた。


「できるだけ早く戻ってきてよ、正臣」

当の本人には届かない虚しさがこみ上げて、仰ぐように窓から空をみた。

「キミの“お気に入り”の後輩君も心配してるんだからさ」








まだ何も返せてないのに。
暗くなった廊下を一人歩きながら、凪は昇降口の方へ向かった。



正臣との出会いは中学生の頃に遡る。

塾の帰り道にまたまた通りかかった公園で、独りの人間を虐めている集団があった。少林寺を習っていた凪は、その人間を助け、周りを囲んでいた奴らを倒したまではよかったのだが、その翌日に、その倍以上の人間に敵討ちを食らったのだ。意識が朦朧としはじめ、立っているのすら限界を超えたとき、彼が現れた。

凪の前に立ちはだかった金髪の彼は、「よく頑張ったな」と言って髪をひと撫でした。それから、大のボス的人物に的を絞って突っ込んでいった。

鮮やかな戦い方だった。俺が苦労して倒した何倍もの速さで、相手を地面に叩き落とす。的確にダメージを与えていて、凪も思わず見とれてしまった。

それ以来、凪は『将軍』こと正臣の率いるカラーギャングの黄巾賊に入った。喧嘩自体は好いていなかった。ただ彼の役にたちたくて、側にいたかったのだ。


「今日も頼むぜっ」


と、声を掛けられるたびに一喜一憂していた。心酔といってもいいほどに。



またいなくなっちゃうんですね、先輩。
あのときも何もしてあげることが出来なかったのに、これじゃ同じことの二の舞だ。まだ俺は恩を返せてない。だから先輩の側で………。

外に出るとぽつりと頬に冷たいものが当たった。ぽつぽつと勢いを増して当たるそれは、先程まで彼が流していた涙ではなく、もっと高いところから落ちてきていた。



『帰ってきて下さいね、先輩』


俺、何時までも待ってますから。
凪は泣いてばかりはいられないとばかりに目元をごしごしと袖で拭って、傘もささずに歩き出した。

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