短編 | ナノ
発展しねぇかな?

「はよー」

『あ、朝比奈。珍しいじゃん、こんな早いの。あ、絵麻ちゃんおはよー』

教室のドアを開ければ、 一番近くにいた宮沢に挨拶すれば目を見張るように話しかけてきた。

「おはようございます、宮沢君」

控えめに絵麻が笑い、席に向かったのを見送り、宮沢のやつを睨む。

「……何ちゃん付けしてんだよ」

『えー?だって名字ダブるじゃん。呼ぶときにさー。だからだよ』

名案だろ?と自慢げに笑った宮沢を、軽くはたく。何が名案だ。

『いたーい!侑ちゃんひでぇ』

「誰が侑ちゃんだよ」

息を吐き出し、席にどかっと座る。斜め前に見える背中を見て、もう一度ため息をはいた。

宮沢は絶対気づいてる。
口に出して聞かれたわけじゃない。

だけど普段へらへらしてるくせに、実は勘がよく頭が柔らかいのだ。学年トップだというのは噂に過ぎないけれど、強く否定しないところを見ると多分本当だろうし。

俺があいつを好きなことも、俺が自覚する前に気づいていたようだった。以前仲良く話していたところを引き剥がした時に、焼きもちー?なんてにやけ顔で聞かれたのだ。

今回のことも確信犯なのは一目瞭然。


『なぁ朝比奈ー』

「何だよ」

俺の机に顔を伏せた体勢で宮沢が俺を呼んだ。

『絵麻ちゃんのどこがす、』

「あ、馬鹿!名前出すなっての!!」

すき、と言われる前に慌てて、宮沢の口を手で塞いだ。不服そうに俺を見た宮沢から手を外せば、『なんだよ、もー』と口を膨らませた。

「それは俺の台詞だっつの。いきなり何なんだよ」

『いや、どんなふうにすきなんだろーってふと疑問に思ってさ』

何でそんな事を。

『興味本位だよ。彼女は綺麗だし人もいいけど、オレは友達以上には思えないからさ。ほら密かにモテてんじゃん、彼女』

どうやら顔に出ていたらしい。
宮沢の言葉に、「まさかお前も?」と聞けば、『お前と一緒にすんな』と一蹴された。

「ダチに好きな奴がいるとか」

『それもない』

「じゃあ本心は?」

『本心はさっきの通りだよ。もうちょい付け加えんなら男って女子のどんなとこを魅力的だと感じてるか知りたい』

「はぁ?カノジョいるお前がわかんねぇのかよ」

『それはそうなんだけどさー、最近分かんなくなってきたんだよね。だから教えて、教えてー!』

宮沢には中学からカノジョがいた。
何度も登下校中の彼らを見ているし、昨日だって廊下で仲良く話していたのを知ってる。

「わかーったから机揺らすなって!」

ガタガタと机を揺らし始めた宮沢を制止させ、仕方なく口を開いた。

「……大人しくて…ぽやぽやしてるくせに、回り見えてて……気が利くやつだから。……ちゃんと自分以外に気配りができるなんて…すげぇなって。……そっから、その……さ、」

『好きになったってこと? へぇー……じゃあ侑ちゃんは、自分に出来ないことが無意識的にできるとこに惚れたのかぁ』

どもって口に出来なかった単語をすんなりといった宮沢は、どこかを眺めて顎に手をあて何かを呟いた。

「なんか言ったか?宮沢」

聞き取れずに聞き返しても、『何でもないよう!』と誤魔化すだけで、結局聞き出せなかった。けど、ちらりと見えた横顔はどこか寂しげにみえた。





疑似カノジョ=結託仲間

(侑ちゃんの好きなタイプってさ、無い物ねだりとも違うけど、そんな感じなんだよね。侑ちゃんの好きに当てはまらないのかな、おれ)
(きっと近すぎて気づいてない、とか?)
(じゃあ遠ざけてみたりしてみようかなぁ)
(凪君ファイト!)

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