中編 | ナノ
とあるベビーピンクの憂い

夕希君って本当に男の子?

そんなふうに疑問を抱いてしまうのは、もう何度目か忘れた。けれど、今日ほど感じたことはない。手元にある箱を見ながらため息をついてしまうくらいには。

遡ること1日前。


昼食が早く終わった私は、もう習慣と化した図書室にて宿題をこなしていた。1時間はないけれど、30分は余裕がある。こんなスキマ時間に宿題はもってこいなのだ。高校生に出される宿題って、小中学校に比べて極端に少ない。ない教科だってある。ドリルとか使ってたのが、教科書の隅にある二、三問の問いをやってくるだけに変わったくらい少ない。正直物足りなさささえ感じてしまう。だから30分なくて終わることが殆どだけれど、今日に限ってその二、三問が、三教科もあって、でもでも家に持ち帰りたくはないと必死に頭をフル回転させていた時だった。

『と、……なり、空いてる、かな?』

控えめな小さな声に、ずっと動かしていた右手を止めた。声の方に顔を向けると、へにょんと眉根を寄せた夕希君の姿があった。

「あ、空いてるよ!どーぞ」

『……ありがとう』

急いで教科書を窓際に追いやって、隣を開けるとくすっと夕希君が笑った。

『どのテーブルも使ってて、宮原さん…のお向かい、でも、良かったんだけど…、折角だからと、思って……』

邪魔してごめんね、と付け足す夕希君に、そんなことないよと答えた。

「あ、夕希君前髪切った?」

『えっ!?…うん、よく…気づいたね』

夕希君の細い指が撫でるように前髪を攫って、『すこし…気分転換、にと思って』と、笑みを浮かべた。

「えっ、自分で切ったの?」

『…ぅ、うん、変…かな?』

「そんなことないっ、凄く上手!」

『…あ、りがと』

照れたように笑い視線を前に向けた夕希君の横顔が可愛い。暫く見つめていると、夕希君が髪を耳にかけながら言った。

『反対に…宮原さんは、髪…伸びたね。真っ直ぐできれい』

「そ、かな?」

夕希君のすごいと思うところは、こういうところだ。真っ直ぐ素直に相手に気持ちを伝えられる。変に飾っていないそんな言葉だから胸に直接届く。だからなんというか、気恥ずかしくなる。




時計で時間を確認すると、予鈴までもう数分しか残されていない。この時間じゃもう1頁というのもためらわれて、手を止めた。ちらりと夕希君を覗えば、本の文章を指でなぞりながら読んでいた。私の視線に気づいたのか夕希君がふと視線をあげる。

『…宮原さん、宿題おわった?』

「えっ?あ、ううん。でも、そろそろ授業はじまるから」

あぁ、そんな時間だったんだね。
夕希君が本を閉じて、学生鞄にしまった。代わりに桃色の包装袋を取り出した。

『これ、渡したくて…』

「ん?」

『休んでた時、心配かけちゃったおわび』

「っ、私お見舞いしかしてないよ!」

『…、心配、たくさん…してくれてたよ。真っ先に、話…かけてくれた、もの』

それはまだ日の浅い今週の月曜日のことで、今日もきっと休みなんだろうなとは図書室にいってすぐ、何気なくカウンターを見たら彼がいた。少し痩せたようにも見えて余計心配になって、本の返却を忘れそうなくらい話しかけていたけれど。

「夕希君律儀だなぁ…」

『そ、んなこと、ないよ。…気にかけて、もらえただけで、嬉しいから…』

そういって微笑む夕希君は、本当に嬉しそうな笑顔だった。断りづらくてうけとった包装袋は、ラッピングも綺麗にされていて、リボンの結び方も手作りのように見えた。

家に帰ってから、変に緊張してしまって、開けたのは次の日の土曜日だった。

包装袋にはそこに入るくらいの丸い箱が入っていた。シール止めがあるから、説明書きのシールを探したけどどこにも見当たらず、そっと開けた。

中身はクッキー。真四角で、プレーンとチョコのと、四角を四等分して格子模様になっているものと。それぞれ数枚ずつ入った手作りのそれに思わず、箱を閉じて「女子か!」と心の中で突っ込んだ。

本当に男の子?

そんな疑問がわかずにいわれない。
そしていま現在に至る訳だが、果たしてこれどうするべき?いやいや、普通に食べればいいのはわかってるんだけど、なんか女子として負けた気がする。それで言ったら、もう最初から負けてたけど、でもでもなんか複雑だ。





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