中編 | ナノ
見上げるだけじゃなくて

ひとりでいるのが好きだった。
ひとりだったら、周りなんて気にしなくてすむ。
父様も母様も、二人の兄様方も大好きだ。
でも国王っていう役割が嫌いだった。

どこにいくにも付きまとう

そんな両親のもとに生まれた僕も必然的に“王”の子だ。

僕はそんな地位なんていらなかった。

欲しくなかった。

なんで、母様が国王だったんだろう。

僕は人前に出られる程優秀ではないし、母様や兄様方のお傍に立てるほど壮麗でもない。

なのに、どうして僕だったんだろう。




あつい、身体があつい。ぽかぽかする。

ぼんやりとした感覚だった。でもどこか寝苦しさがあって薄目を開く。

『…………っ、?』
「目、覚めたみたいだね」

自分を覗きこむように見ていた人と視線がぶつかった。……さっき、薬室出会った人だ。硬かった表情が緩んだかと思うと、その人は膝に乗せていた本を閉じ立ち上がる。

「……伝えてくる」

背けた背中が遠ざかろうとして、僕は身体を起こして咄嗟に手を伸ばした。

『待って……!』
「わっ…」

ユキの勢いに、リュウの持っていた本が床を滑る。

『ご、ごめんなさい!』

ユキは反射的に掴んでいた手を離して謝った。対してリュウはあまり気にした様子もなく、落ちた本を拾って、ユキを振り返った。

「別に。……どうかした?」
『えっ、………ぁ、あの…、』

聞きたいことがあった。どうしても知りたかった。でも口にするのが恐くて、一度開きかけた唇に力が入った。

『……兄様、は、何か…おっしゃって、いましたか?』

それでも聞かずにはいられなくて、ユキは手元に作った拳を見つめながら話す。リュウの表情はこわくて見れなかった。

……こんな情けない愚弟のことなんて、何の感情すら沸かないかもしれない。それでも気になってしまう。



「………聞いてみたら?」

暫しの沈黙の中、相手の様子を探っていたら、静かな声が聞こえた。答えじゃなかったけど、聞いた事を怒ってもいない。静かな声だった。

「あの人なら、包み隠さず答えてくれる」

リュウが遠ざかっていくのを、ユキは耳だけで聞いていた。

自分で聞くことが出来たなら、自分の事を言えたなら、君に聞いていないよ。

そんな心の声なんて届くはずない。

ずきずきする胸を抑えて背中が自然と丸まった。そんな時規則的に聞こえていた音が入口付近で止まり、「……それから」と、リュウの声がした。

「もうじき昼食だよ」

パタンとドアのしまった音がして足音が遠ざかる。完全に音が消え鳥の声や風の音だけになってようやく僕は息を吐き出した。

手元から視線を外し窓辺に目をやった。彼の言っていたとおり日が高い。長く寝ていたんだ。さっきの返事もまだ返していない。明日薬草がりに行くというのなら、今日中に返事もしなければ。

カーテンが靡くたびに見える空を見ながら憂鬱な気分になっていると、ティーセットが置かれているのが見えた。ベットから下りてティーカップを手に取り、ティーポットを傾けると、見覚えのある色の紅茶が注がれた。時間が経っていたためか湯気はない。ただ香りは薬室で味わっていたものに変わりなかった。

……リュウさんが用意してくれたのかな。

向かい側に座っていた彼なら、僕がどんな表情で飲んでいたか知っていると思う。

一口含めば香りが口内に充満して、途端幸せな気持ちになる。

『…………美味しい』

誰もいないのをいい事に声に出して呟いた。






昼食後ガラクのもとへいったユキは緊張しながらも提案の答えを伝えて、『ごめんなさい』と心の中で謝った。



……僕には知りたい気持ちがあっても、それを知る勇気がないんだ。


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