ふたりでひとつ
『それより姉さん。話があるから集めたんでしょう?』
夕希が脱線していく話を戻すと、我に返ったようにぽんっと手のひらを打った長姉がそれはそれは幸せそうな表情で笑った。
「そうだったわ!私、こんど婚約するのよ。結婚式は11月21日。土曜日だけど空けておいてね」
『おめでと、姉さん』
四捨五入すればアラサーに所属してしまう長姉なので、ずっと30を迎える前に結婚を望んでいた。
「お姉ちゃんほんと!?よかったねっ!」
夕希の隣で渚が椅子が倒れそうなほどに勢い良く立ち上がり目を輝かせた。他の姉さん達も自分の事のように嬉しいようで、目元を潤ませたり、拍手したりしている。
そんな中で夕希は長姉が皆に囲まれて喜んでいるのを椅子に座ったまま眺めていた。表情は明るくて、嬉しそうなのに、どこか一線ひいていて、傍観者じみてる。全くの他人じゃないのに、他人事って感じだ。それが寂しくて、僕は夕希のとこまでいって、ひんやりしたその手を引いた。
『渚?』
「こっち!夕希も来なきゃっ」
『姉さん囲まれて困ってるよ』
「それより嬉しさのが勝ってるって!」
次姉や三女がお祝いに何を買おうなんて相談を始め、それに母さんも混じった。
「お姉ちゃん」
空いた隙間に入って渚は長女に話しかけた。右手の先には夕希もいる。
「なにー?」
「結婚式どこでやるの?」
「ホテルマリアージェ鳥取」
「銀のシャペルあるとこだ!」
楽しみにしてるね!と、姉に伝えていると、三女が「お姉ちゃんは何欲しい?!」と駆け寄ってきた。ナイスタイミングだ。その隙を見計らって、『えっ、ちょっ……なぎさ!』と困惑してる夕希と一緒に自室まで向かった。
『……さっきからどーしたの』
ようやく離れた手を見ながら夕希が聞いてきた。夕希から話してくれるなんて何時ぶりだろう。
「ゴーインにごめんね!あのっ、やりたいことがあって!」
『………やりたいこと?』
「…夕希が僕のこと話したくないくらいに嫌いでも、一緒にいるのが…嫌でも、お姉ちゃんのために協力して!」
渚の必死な声に、夕希は少しのあいだ、考えるように目を伏せ、間をおいてから『……いいよ』と呟いた。