時にスピカは純情だったり
あ、真波君じゃないか。
昼休み、ウサ吉に会いに校舎裏の小屋まで様子を見に来てみれば、壁に寄りかかりながらしゃがみこむ柔らかな髪の少年がいた。色素の薄い綺麗な髪は青紫、ヒヤシンスの花の青に似ていた。
最近靖友が気にかけているせいか、見かけるとつい声をかけてしまいそうになる。
驚かそうと近づいてみれば、すーすーと穏やかな寝息が耳に入った。
……教室、賑やかだもんな。
無意識に手が髪を撫でる。穏やかな寝顔は幼くて、暫く眺めていた。
『…………んっ、…?』
「あ、起こしちゃったか?ごめんな」
『……ぁ、いえ……』
「おめさん、よくここに来てるのか?」
『……気が、向いた時に…。先輩は、よく来て…らっしゃるんですか?』
「よく…というより、毎日な」
ふわぁと欠伸をした真波に、髪を撫でる手を止めた俺は、撫でるためにしゃがんでいた腰を上げた。それに合わせて、彼も勢いよく立ち上がる。
『……ぁ、あのッ』
「ん?」
ウサ吉の方へ行こうとした俺の裾口を軽く引っ張られて、視線をさげてみると彼は顔を真っ赤にしていた。
『……僕、まだ先輩方の……お名前、知らなくて……』
「あぁ、そうだったのか」
『ぁ……、はい。それで……こ、ないだ……、黒髪の先輩が保健室に来てくださった時も……その…、聞けなくて……、なので、もし…ご迷惑、じゃなかったら、……教えて頂けたら、………なんて。あっ……、僕は一年五組の真波夕希といいます』
しどろもどろに話し始めた後輩は、どうやら俺たちの名前を知らなかったらしい。結構有名だと思ってたんだけどな。自意識過剰かもしれないが、周りに騒がれているので、てっきり彼も知っているものだと思っていた。それよりも気になったのは。
「黒髪の先輩?」
『カチューシャ、をつけてない先輩です』
「あぁ、靖友か。あいつは荒北靖友っていうんだ」
『荒北、先輩ですか!』
「口は悪いけどいい奴だから、これからも宜しく」
『……は、はいっ!』
靖友の名前を教えてやれば、心底うれしそうに笑ってお礼を言われた。それから自分のことや、尽八や寿一の名前を教え、ついでにウサ吉も抱っこさせてやる。おどおどと怯えてはいたものの、最終的には頭を撫でられるくらい打ち解けていた。
「また気が向いたら、こいつに会いに来てやってくれよ」
『いいんですか?』
「あぁ、こいつもきっと喜ぶさ」
『有難うございます、新開先輩!』
予鈴のチャイムに夕希が、『お先に失礼します』と走っていった方を見ながら、「靖友がそこまで入れ込んでたとは知らなかったな」と独り言が漏れたのは、姿が完全に見えなくなってからだった。
後輩というより、弟?みたいな感じかな?
実際の弟も可愛いけどさ