中編 | ナノ
窓際、一番奥の席

あれ、図書室にいた優等生チャンじゃナァイ?

不思議チャンを探しに四人で校内をさ迷っていた時、図書室にいた″真波″は別人だった。不思議チャンより背が低く、身体つきも如何にも文系ですといった具合に細くて、筋肉すらついてるのかあやしい。

1年の教室の片隅、窓側の席の後ろにそいつは座っていた。部屋の中で、そいつだけただ一人本を読んでいる。分厚い本を上から下へ、よほど集中してるのか周りが騒がしい会話に入っていないようだ。

まさに本の虫と呼ぶに相応しい光景だった。

「どうしたんだ?靖友」

前を歩いていた新開が足を止めた俺に気付き戻ってきた。

「ああ、真波か!」

「紛らわしィー…」

「それもそうだな。なら君づけで呼ぶか」

暫くそいつを見ていれば、ふと昔の自分の姿が重なった。誰とも関わらず、視界にすらいれない。俺みたいに腐ってるわけじゃねェし、ささくれだってもいねェけど、どこかほっとけない雰囲気があった。











それから頻繁に、あいつを見かけることが増えた。廊下や体育館、それから校庭、どこで見かけるときもいつも一人きりで行動していた。


「ナァ」

『…………っ!!』

食堂にいたあいつを見かけ、今日は思いきって近寄り話しかければ、大袈裟なくらいに肩をびくつかせた。

「…… よォ」

『………………ぇ、…ぁ…あの、』

「真波君、体調でも悪い?」

新開が荒北の後ろから顔をだし、目の前に座っていたこいつの血の気のなさに気づいて声をかけた。それにまた怯えたように身体を震わせた。

『……だ、……だいじょぶ、です』

「そ?ならいいけど……」

『…………ご心配、ぁっ、…有り難う、ございます。で、でも、……ぁ、……あの…………なぜ…』

「不思議チャンとは違ェけど、おめぇもなんつーか…気になんだヨォ!」

『…ぇ』

「食欲がないのか?」

久しいな、図書委員と、後ろからやってきた福チャンと東堂に、そいつはさらに身を固くして、ぎこちなく頭を下げた。

「うむ、フクのいうとおり量が減ってないではないかぁ!そんなんじゃ体力もつかぬぞ」

『………ぇ、と…………すみません』

「あ、謝る必要などどこにもないぞ?!」

何故涙目になっているのだ!と、東堂がわたわたしはじめる。事実、手に持っている弁当箱の中身は半分も減っていない。見る限り卵焼きが少しとハンバーグの半分、ふりかけのかかったご飯を何口か程度だろう。推測しまっている自分に笑いながら、「まァ、あんま無茶すんじゃねェよ」と、頭をひとなでしてやった。それにもやっぱりびくっと肩をはねあげる。

こいつ、うさぎみてェだな…

新開の世話してる小動物が浮かんで、頬がひくついた。

『ありがとうございます』

耳にやっと届くくらいの小さな声でお礼が聞こえて、そんな怖ェくらいなら返事しなけりゃいいのになんて思いながら、「おー」と相槌を返す。

これ以上怯えさせんのも本意じゃない。だから今日のところは別のところで食うことにした。


まァ、一度知り合った程度の上級生に囲まれりゃ、怖がんのも無理ないかもねェ……。








五時限目、教室で大人しく授業を受けていれば校庭を走る下級生がみえた。どうやら体操着の色からして1年のようだ。種目はソフトボールらしく、中央にいる生徒が下からキャッチャーミットめがけてボールを投げている。それを暫く眺めていれば、見知った背格好の奴が座席にたった。

あいつ、真波じゃねェの?

不思議チャンも真波だが、そっちではない。真面目チャンのほうだ。

腕も細ェんだな……

制服に隠れていた部分も身体同様に細い。下手すればバットより細い。見た限りでは50キロもないのではないだろうか。

ピッチャーが振りかぶり、ボールを投げた。あいつが腰を落として構え、思いっきりバットをふった。すると運よくタイミングがあったのか、ボールは勢いよく飛び出して二三塁間を通過していく。あいつは一塁へ走り、三塁の生徒はホームまで戻ってきた。一点追加点である。

なかなかやるじゃナァイ!

周りからも″真波よくやった!″″うまく当てたなっ!″″逆転だぜー!″なんて歓声があがっている。あいつも当然喜んでいるものだと思って、一塁にいたあいつに視線を戻せば、蹲った姿勢で顔を埋めていた。


……やっぱ体調悪かったンじゃねェか。
無理してんじゃねェよ。

あいつは指導教員に付き添われて、校舎に戻ってくるのを見ながら、早く授業終わんねェかな、なんて時計に視線をやった。





庇護欲そそる?つーか、
独りにさせときたくないつーか、
ほっとくと危なっかしいつーか、
…………なんつーかそんな感じなんだヨ、言わせんな!



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