忘れられない感情
コンクリートに叩きつけるような雨の降り頻るなか、少年は必死に手を伸ばした。その先に横たわるのは彼と同じくらいの少年の姿。言うことをきかない身体に鞭を打ちながら、手だけでも届けと指先に力を込めた。
おきて…!
お願いだから、きづいて…ッ
道路には横転した乗用車が2台、その片方は炎をまとっていた。車には誰の姿も見えない。かろうじて車内に見えるのは、愛らしいうさぎのぬいぐるみだった。
その火の明るさに、少年たちの顔も赤く照らされいる。火の強さが増すごとに、その赤みも増していった。
早くおきてよ…っ
いつもみたいに笑ってよ…!
少年の脳裏に、いつもの彼の姿が浮かぶ。臥せってしまっている時だって笑顔で笑いかけてくれて、いつだって心の支えになってくれていた。だいすきで、ずっと側にいたいそんな存在。少年は先程からとまらない涙を拭いながらも、彼に向かって声をかけ続けた。
………………っくん!
サイレンの音に気づき、少年は目をさました。薄ぼんやりする視界に、キョロキョロと辺りを見回す。身体を起こそうとすれば、全身に激痛が走り声が出た。
「あ、気がついたのね!よかったわ」
少年に気づいた看護師が振り返り、ふっと笑いかけてくれる。
「今は身体を無理に動かさないでね?治療するまでちょっと辛抱していてね」
そう言うと少年の頭をひとなでし、視界から消えてしまった。意識がようやくはっきりしてきた少年は、ここが救急車の中であることに気づいて、ようやく彼のことを思い出した。
あの子はどうなったんだろう。
今はどうしているんだろう。
大切な彼の姿が一目みたい。
自分より血がいっぱいながれてた。
彼はぴくりとも動かなかった。
…………しんじゃったわけじゃないよね?
最悪のシナリオが頭に浮かんで、少年は頭を左右にふった。力の限りふって嫌な考えを吹き飛ばす。
ちがう、ちがう、ちがう!
そんなのやだ。
絶対また彼は笑いかけてくれる。絶対、絶対に大丈夫!
一度止まった涙が再び溢れはじめて、少年は看護師が駆けつけてくるまで泣き続けた。