貴方は笑ってくれる
何分手を握っていただろう。
まだ小刻みに震えてはいるけれど、最初より慣れてきた彼の様子に胸を撫で下ろす。
「……恐がらないで下さい」
ぎゅっと抱き締めれば、肩を上下させ、身体に力がこもった。
奴隷のような格好をしていた彼はきっと直接的に好意を抱かれたことがないのかもしれない。硬直ぎみな身体は、馴れていないことを如実に表している。
とくん、とくんといくらか速い鼓動が聞こえた。安心させるように背中を撫でる。骨が浮き出るほどにほそい身体に、胸がぐっと痛くなった。
「ジャーファル。……もう寝ろ。彼に風邪をうつす気か」
「わ、かりました」
名残惜しくはあったけれど、体力の戻っていない彼にうつしてしまうのには、抵抗があった。
「あ、シンドバットさん!ここにいたんですか」
「あぁ、なにか用があったか?」
ガラッとドアが開き、中に入って来たのは、アラジン、アリババ、モルジアナの三人だ。
「そろそろ昼食の時間みたいで…………、ユキ?」
シンドバットからベッドに上半身だけ起こした彼に視線を向けたアリババが息を飲んだのを見て、ジャーファルは尋ねた。
「……ユキ?」
呟きながら、先ほどまで抱き締めていた少年に視線を移動させた。
「……バルバットで暮らしている時に行方不明になったユキにそっくりで、」
信じられないと言いたげな表情で、彼を見るアリババを人目見て、彼に視線を戻せば、身体を震わせながらアリババをみている少年がいた。目からは涙がぼろぼろ溢れている。
「……あなたはユキというのですか?」
すると少年はジャーファルの質問に頭を揺さぶった。何度も何度も上下に振る。ぐしぐしと両目から溢れる涙を拭いながら、声もなく泣いていた。
『……っ……ん、…』
その彼の様子に、アリババの頬にも一筋の涙が伝った。
「声が……出ないのですか?」
モルジアナが怪訝そうに言った。
その質問にユキがさらに激しく頭を揺らす。その反応をみたジャーファルは、咄嗟にもう一度彼を抱き締めていた。