たったひとつ出来たこと
「(……最初は少年の保護なんてとは思いましたが、触れた途端に気絶では困惑されるのも無理ないですね)」
ジャーファルは気絶してしまった少年を腕に抱えて、歩き出した。
「(それにしても、一体いくつくらい何でしょう、彼は)」
年齢はおろか名前さえわからない少年を見ながら、それにしても軽すぎると心が痛くなった。
「(……アラジンと同じか、それ以下に見えますね)」
そんなことを考えながら王宮へと向かっていると、空からピスティが飛んできた。
「なになに?その子ぐったりしてるけど」
「王宮で保護することになったんです。まだ名前もわからないんですが……」
「私が運ぼうか?」
「大丈夫ですよ、心配には及びません」
「ならいいけど」
ピスティは鳥の背中から飛び降り地面に着地すると、ジャーファルの後ろからトテトテ後をついてくる。彼女も彼女なりに心配してくれているのだろう。
「隣に来たらどうですか」
くすっと笑い促せば、「じゃあそーする!」と、歩いてきた。
「……看病したら元気になってくれるよね?」
弱々しい彼女の声に視線を下げれば、彼女の目線はジャーファルの腕の彼に向いていた。いつもの彼女らしくない声に調子が狂う。
「大丈夫と言ったでしょう。何も心配は入りません」
必ず助けるんです。
ピスティへの言葉をジャーファルは自分自身に言い聞かせるようにいった。
たとえこの手で体温が感じられなくとも。
かならず……。
王宮について医師に彼の容態を見てもらえば、疲れからくる疲労と飢えからくる脱水症状で、意識がないのだと説明された。
「幼い頃から酷い生活をしていたんでしょう。生きていれたことが不思議なくらいです」
「助かるんでしょうか、彼は」
「まだ何とも言いがたいですな……この子次第ですよ」
その言葉にシンドバッドをはじめ八人将の表情も暗くなった。
ジャーファルは今にも折れそうな細い手を包み込むように握り、言い聞かせるように呟く。それは彼自身の願いであり、ここにいるすべての人の想いだった。
「絶対大丈夫ですよ、君なら」
生気のない蒼白い顔は見ていられないほどだ。けれど、ジャーファルには何故だか彼には生きる意思があるという確信があった。