中編 | ナノ
愛くるしくて、哀苦しくて

がちゃりとドアの開く音に、肩が震えた。
そして聞こえてきた声に、無意識に力がはいる。

「あ、ハル…。どうしたの?」

七瀬ですら自分より高いのに、それよりも高い位置からの声に驚いた。

180以上はあるんだろう、きっと。

「ほら、着いたぞ」

そんな考えに耽っていたら、遙が手を引いた。
えっ、ちょっ!そんな心構えがまだなのに。
咄嗟にフードで目元を隠す。
手は力をこめて、横で固く握った。

「ハル、この子は……?」

ずっと聞きたかった声。
複雑な気持ちだったけど、声が聞こえて安心したのも事実だ。長い間聞けなかった従兄弟の声はやさしかった。

『まこ、と……』

「俺のこと……、知ってるの?」

その問いに頭が小さく上下した。

「フード、とってもいい?」

『……自分でとる』

そういって僕はそっと片手で黒いフードをとった。
中に隠れていた髪が、風で揺れる。
特徴的な色の髪に、真琴が目を見開いた。

「もしかして……ゆうちゃん?」

『…………』

「ゆうちゃんだよね?」

ゆうちゃん、か。
久しぶりに聞いた懐かしい呼び方だった。
もう小学生じゃないのに、ちゃん付けは勘弁だ。と、軽口も言えるはずもない。

「ハルがゆうを連れてきてくれたの?」

真琴の視線が逸れたことにほっとした。

「…………行くと決めたのは本人だ」

七瀬の言葉に真琴がふっと笑った。
会いたがっていたと言っていた言葉が甦る。
真琴は本当に嬉しそうだった。

「あぁ!立ち話も何だし、家に上がりなよ。伯父さんたちも来てるし……あ、ハルも夕食まだなら食べてかない?」

「俺はいい」

そういって七瀬が門に向かって歩き出した。

『えっ、帰っちゃうの!?』

僕が焦ったように聞くと、そっけない返事が背中越しに聞こえた。

「送って来ただけだからな」

『……そっか。あ…ありがと、はるくん』

あとは二人で何とかしろ。
彼の背中はそういっていた。
七瀬はそれだけ言うと、「また明日な」と帰っていく。

夕希は暫くその背中を見つめ、見えなくなると息を吐き出した。

「夏とはいえ寒いだろうし、そろそろ入らないか?」

『あ、 ……うん』

ぎこちない返事を聞きながら、先にあがっていく真琴を追いかけた。

『お邪魔、します』

「どうぞ!…あっ、ゆうは夕食食べ…」

『空いて、ない』

「…そっ、そっか!じゃあ俺の部屋先に行っててくれないか?階段あがって、奥の左手にあるから」

『……うん』

やけにぎこちない会話のあと、夕希は静かに階段を上がった。5年以上も話していないせいか戸惑うのは仕方ないという想定済みだった。

けど、それにしたって。

仲直りの仕方を知らない幼稚園生じゃないんだからと気が沈む。

折角作ってもらった機会だ。
もう逃げるわけにはいかない。

[まこと]とプレートのかかる部屋を見つけ、いつか二人で遊んだ子供部屋にかけてあったのを思い出す。まだ残っていたことに驚きつつ、部屋へ足を踏み入れた。



入ってすぐに目についたのはCDやDVDなどの収納ラック…ではなく、その上に飾られた写真たて。

それはビーチボールをもつ無表情に近い七瀬と、
水をかけられて冷たそうにはしゃぐ真琴と、
海で遊んでいる夕希の写真だった。

『こんな恥ずかしいのまだ持ってたんだ……』

真琴に会いたくないと、僕が逃げていた間、真琴はどんな気持ちで写真をみていたんだろう。そんな考えにひどく胸がしめつけられた。




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