涙の底に煌き、燈る
「………本当にそれだけか?」
『それだけって?』
夕希の言葉に七瀬が眉根が寄せた。
知らないフリをしていることが気に入らないといった真っ直ぐな気持ちが伝わってくる。
「夕希」
怒気すら含んだみたいな強い口調で呼ばれた。
『こわいってば。……………でも、たぶん………はるくんの考えてる通りだと思うよ』
考えを肯定する。
遙は知ってるから。
僕が誰の心配をしてここに来ているかを。
「だったら来るべき場所は此処じゃないはずだ」
その言葉はいつか言われるとずっと思っていた言葉だった。真琴のことを知りたくて、両親から聞いただけでは物足りなくて、だから七瀬を訪ねていた。
そのたびに七瀬は心配そうに僕を見ていたから。
『……さっきも言ったじゃん、察してよって』
「だからっていつまでも逃げているつもりか」
『だって……』
傷つけたくない、のだ。
傷ついてしまって、トラウマにさえなってしまったことを知ってるから、こそ。
「……真琴は避けられていることに悲しんでる」
……そんなわけっ!
そういいかけて開きかけた口が震える。
それはとても真琴が言いそうな言葉だったから。
「 …顔を、見せてやってほしい」
いつになく真剣で積極的な遙に戸惑う。
その視線を避けるようにそっぽをむいた。
『そんなこと、言われたって…………』
ふと今にも涙をこぼしそうな記憶の中の彼が浮かぶ。頬に手が添えられた。遙の手だ。顔をあげると視線が混じりあった。
「一度でいい。恐いなら俺も一緒にいてやるから」
いつもより七瀬の口数が多いのは、親身になって考えてくれているからなんだろう。なんでこんな駄目な僕にそこまで必死になってくれるのだ。
臆病者、の僕に。
頭が混乱して黙ったままでいると、七瀬がまた言った。
「夕希頼む。このままじゃお互い苦しいままだ」
『………は、るか』
ぎゅっと身体を抱き締められた。
苦しいくらいの包容に、夕希はふと真琴を思い浮かべた。七瀬とずっと一緒に育ってきたのは真琴だ。夕希にこんなに思われるほど多く接してきた思い出などない。
きっと遙は真琴のために…!
だから必死なんだ。
そう思うと急に身体が震えだし、とまらなくなった。
「頼む…っ!」
切羽詰まったような七瀬の懇願に夕希は瞳を閉じた。
(……遙は真琴のために、必死なのかもしれない。
だったら遙のために僕のできることはひとつだ)