黒子のバスケ | ナノ

白昼夢のよう

じーっ。
先程から動きをただ見つめてくるだけの視線に気味が悪くなり振り返った。

「そんなにバスケしてーなら、見てねぇで入ってこいよッ」

フェンス越しにいた相手に話しかける。するとそいつはゆっくりとコートに入ってきた。

「なっ……!」

遠目からでも肌の白さには気づいていたが、近づいてくるにつれて、その白さが余りにも病的なのをまざまざと見せつけられる。

それだけじゃない。

黒い服のせいというのもあるだろうが、それにしても細い。身長は黒子くらいありそうだが、平均値を下回っているのが体型だけでもわかる。

「お前……バスケ、好きなのか?」

手の届く範囲までやってきた奴の視線の先には、俺の手の中のバスケットボールがある。質問にそいつは小さく頷いた。

『やってたこと、あるんだ……』

そいつはエンジン音でも消えてしまいそうな声で呟いた。

「じゃあやろうぜ?1on1」

『……いいの?』

「なんだよ、やりたいんじゃねーの?」

『…………やりたい』

「よっしゃ5点先取で勝ちな? 先攻?後攻?どっちがいい?」

『あと』

それだけいってゴール前に向かったそいつに、「パーカー脱がなくていーのかよ、暑くなんぞ?」と聞いてみたが、首を振られた。

「そんじゃ行くぜッ!! 」

二、三度バウンドさせた ボールを片手だけで掴み、一度みた。俺の言葉に反応して、そいつが足を開いて構える。

身体の細さに驚きはあったが、構える姿勢は確かに経験者のそれだ。

がっかりさせてくれるなよ

口元がにやけるのを引き締めながら、俺はそいつに向かっていった。








『........はぁ、......は、ぁっ..』

「なっかなか、やれんじゃん.....お前っ」

お互いに荒くなった息を整えながら、膝に手を当て下を向いているそいつを見た。

お互いが5回をうち終えた時点で、俺が3点、奴が2点。一応は勝ってはいたが、かなり体力が削られていた。最後までしつこいくらいのマークには、なれているのが伝わってくる。体力がないとばかり思っていたが、それは訂正するべきだ。

「上手いのに、続けてねぇのか....」

『............』

「(もったいねー)」

無言の肯定に、寂しさを感じる。
続けているならば、どこかで試合ができるチャンスはあっただろう。何故ならば見た目だけなら高校生に見えるからだ。高校生だったなら、大会や練習試合で会える。しかし続けていないということは、その可能性が全て消えてしまう。

6回目のシュートをはじかれ、つい笑みがこぼれた。

「やっぱ最高だな、お前!」

『…………はとこのが、うまい』

「はとこ?それ名前か何かか?」

『はとこ……知らない?』

両手にバスケットボールを持って、きょとんとした顔ははじめて見た無防備な表情だった。

「あぁー…、俺…帰国子女なんだよ」

納得したように頭を揺らしたそいつは、『…はとこは、親がいとこの子ども』と、小さく言った。

「…あー?…つまりなんだ?従兄弟が兄弟の子どものことだろ?その子どもの子ども?ってことか?ややこしいな。つか、親戚でいーだろ、わかりずれー!」

『………っ…』

「あっ!今、笑ったろ!!」

指で指し、口角を僅かにあげたことを言うと、ぶんぶんと頭をふって、ドリブルをしながら、ゴールへと走っていった。

『………同点』

そのままシュートを決めた奴は、ネットをくぐって出てきたボールを手のなかにおさめ、満足そうな表情をした。

「ずりー!!反則だろっそれ」

『………油断大敵』



最終的に勝ったのは俺だった。ただ奴も大健闘だったと思う。というのも最後の1点は5回弾かれてからようやくとれたものだからだ。

「負けず嫌いなのな、お前」

『……そーいう、キミ……も、……なかなかっ』

「そりゃバスケ部の意地見せなきゃだろ。つか膝が笑ってるみてーだけど平気かよ」

ベンチに座り込み、がくがくしている膝を押さえている奴の隣に座る。もう片手は胸のあたりにあてていた。

『…しばらく経てばなおる』

「ほんと大丈夫か?」

『うん………ありがと、たのしかった』

奴にはどこかほっとけない雰囲気があるせいか、このまま置いていくのも気が引ける。いっこうに立ち上がる気配を見せない奴に、「送ってくか?」と尋ねた。

『………かえれる』

ふらふらと立ち上がる様子は、無理をするなと止めたくなるほど弱々しい。そのうち奴はへなへなと全身の力が抜けてぺたりと地面に座り込んだ。

「おいおい…大丈夫じゃねーじゃん」

身体を支えながらベンチに座らせてやると、わずかに顔をあげたそいつがふにゃりと笑った。

『……休んだら復活だから、おいてっていいよ』

それにきっと迎えくるし、なんて奴は呟いた。

「けどよ…」

地べたに座り込むほどなのに、ほっとけるかよ。ふわふわ笑ったまま、俺を見ている奴に舌打ちしたくなる。

『へーきだよ』

「ホントにか?」

『うん……だって、ほら』

奴がそう言って指差す方に、なにか叫びながら辺りを見回し走ってくる人が見えた。

『しりあいだから』

最後まで掴みどころのない奴だったな、なんて公園を離れてから気づいた。にしてもバスケ上手かったわ。またやりてー。あ、そーいや名前きくの忘れてたな。


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