手と手を繋いで
「……おはようございます。白崎君、ですよね…?」
『おはようございます。黒子、どうして疑問符つけたの』
「すみません」
『謝られるとちょっと悲しいー』
白崎君との待ち合わせ場所にいけば、それはそれは可愛らしい女の子が立っていた。その姿は思わずまじまじと見てしまうほど。
セーラー服を模したデザインの服に、赤いカーディガン、胸元には青いリボンが結ばれていて、ベージュのキュロットに短めなトリコロール靴下、真っ黒なスニーカーのバランスはとてもいい。
明るめの茶色髪はシュシュで、2つに結び、帽子は濃紺のキャスケットを被っている。化粧もしているみたいで、頬にはうっすらピンクのチークに、リップグロスのようなものも塗っていて、それは色白の彼女によく似合っていた。
彼女をよくよくみれば、それは女装した白崎君だった。その理由を尋ねると、それは先日、お花見で一人ひとつ何かやろう!と先輩たちが考案したくじ引きの結果によるものだった。
『…じゃなきゃ、こんな格好しないよ』
「あの時のカントクは迫力ありましたからね。やってこないと罰ゲームって」
『うん。黒子は何の指令だったわけ?』
「まだ秘密です」
『そっかぁ、じゃあ楽しみにしてるー』
「はい」
『あー、でも気になるー』
白崎君のように服装の指示があったり、食べ物を持ってくるように指令されたり、芸を披露するような指示だったり、くじ引きの中身はさまざまらしく、しかも他人には内緒にしなくてはいけない。
でもほんとに白崎君が女装でよかったです。主将や火神君だったらなんて想像したくないですし。
それじゃあ行きましょうかとさりげなく手を握れば、ぴくんと白崎君の身体がはねたけど、振りほどこうとしないところをみると、満更でもないのだろう。そのままボクらは指定された公園へと向かった。
「黒子、お前カノジョいたのか……?」
「可愛いわね、名前なんていうの?」
公園に着くと、場所とりのために早く来ていたカントクと主将だけしかまだ来ていなかった。二人の反応に、白崎君の腕が小刻みに震えている。余程ショックなのだろう。手を引いて後ろに隠れていた彼を隣に立たせた。
『………………です』
「え?」
『おれ白崎七海です。日向センパイ』
小さな声で聞き取りずらかったのか主将の言葉に、白崎君は顔をあげて涙目で返事をした。名前を答えた途端に、主将のポカンとした顔と、カントクが愕然とした顔になる。暫くその状態が続いて、数秒後に二人の驚愕したような声が同時に聞こえた。
『ひどいです、センパイ達。指令かいたのセンパイ達じゃないですか。おれ女装なんて言われたとき、ほんと困ったんですよ?しかも他言無用って!だから姉さんに頼んで、やってもらったのに。おれはれっきとした男なんです!!』
さっきの反応に白崎君は、頬を膨らませながら拗ねていた。でも端からみれば、不謹慎だけど、可愛いという感想しか抱けない。
「ごめんな、悪かったって」
「機嫌直してってば。あ、飴あげるから!」
そんな慰めの甲斐あって、白崎君は機嫌を直したけれど、後からくる人達も同じように反応するに決まっている。普段から一緒にいるボクですら危なかったのだから。
『……黒子』
少々疲れ気味な白崎君がボクの袖をくぃくぃと引っ張った。
「なんですか?白崎君」
『みんなこういう反応するかなぁ』
「そう、だと思いますけど」
『…そんな女に見えるわけ?』
「……、はい」
『じゃあ、さ……』
「?」
『おれとデートしよ?』
言うが早いかボクの手を取った白崎君は、勢いよく立ち上がり先輩達に断って、走り出した。先輩達の制止も聞かないで、どんどん速度をあげていく。そのとき見えた白崎君の頬は、綺麗なさくら色に染まっていた。
(あいつら戻って来ないつもりか)
(多分ね、それにしても……)
(うん?)
((私、七海君にいろいろ負けてる気がするわ……))
(カントク?)
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