「涼太君にドラマのオファーが来てるんだけど、受けてみるつもりない?」
マネージャーに勧められたそれはつまりタレントとして、モデル以外の仕事も受けて行かないかというお誘い。
散々悩んだ挙げ句に出した答えは…
はじめまして、俳優さん
『お初にお目にかかります。朔役の小早川純です!どうぞ宜しくお願い致します』
現場に着くと、それに気づいた少年がタタタタッとかけてきて、ぺこりとお辞儀をした。少年の名は小早川純、涼太でも名前を知っている人気子役の一人だった。昨日目を通した資料の中に、家族として名前があったを思い出し、涼太も挨拶を返した。
「じゃあキミが弟役の子なんスね!俺は黄瀬涼太、本業はモデルなんで、分からないことあったら教えて欲しいっス」
『どんどん聞いて下さい!…実は、黄瀬さんって僕の憧れの人なんです。雑誌も買ってたので共演出来るなんて夢みたいです!!』
「ホントっスか?!ありがと〜」
二人で談笑に花を咲かせていると、「もう仲良くなったんだねぇ」と監督がゆっくり近づいてきた。重たそうな身体をゆさゆさと揺すりながら歩く姿は、如何にも監督という感じの風格だ。
「今日は共演者の顔合わせと台本を渡すだけだから、それが終わったら解散なんだ。撮影に入る前に友好関係を深めておくと、演技も落ち着いて出来る筈だよ」
『「アドバイス、ありがとうございます(っス)!」』
「息までぴったりとは…。撮影中も期待しているよ」
『「はい!!」』
そう言って監督が去った後、涼太が隣を見れば、純も見上げていて、どちらからというわけでもなくクスッと笑みを浮かべた。
「俺、純君とは上手くやれそうな気がしてるんスけど」
涼太が目をこすって笑いかければ、
『実は僕もそんな気がしてます』
と、純も口元を隠しながら答えた。
「そういえば勝手に純君って呼んじゃってたスけど、純君も名前で呼んで下さいっス!苗字だと堅苦しく感じるんで」
『いやいや!僕の事は呼び捨てでも構いませんが、黄瀬さんが高校生で年上なのに、僕が名前でなんて恐れ多いですよ!』
「純君は謙虚なんスね。でも確か朔役の時は俺の事“陸”か“兄貴”って呼ぶんスよね?だったら今から練習、しといてもいいんじゃないスか?」
『…黄瀬さんの意地悪。じゃあ……譲歩して、涼太君って呼ぶことにします。その代わり黄瀬さんは僕の事呼び捨てにして下さい。そしたら呼ぶことにします。これ以上は無理ですよ?呼び捨てなんて出来ませんから』
勢いよく言った純に、涼太がお安いご用とばかりに手を差し伸べながら返事を返した。
「了解っス。じゃあ改めて宜しくね、純」
それに答えて純もその手をとって、微笑みながら握手を返した。
『はい、こちらこそです!涼太君』
一日目から早くも主要キャストの純と打ち解け始めた涼太はこれから始まる撮影に胸躍らせるのであった。